所属先
凛緒視点です。
「初めまして。スノーフレーク社長秘書をしております。刀川葵です」
「お会い出来て光栄です。財前凛緒と申します」
「本日から正式にスノーフレークで働いて頂く事となりますが……」
「はい! よろしくお願い致します」
「やる気満々なのは構いませんが、スノーフレークはそう甘い組織ではありません。憧れの職場だからと舞い上がらず、緊張感を持って仕事に取り組んで下さい」
「もちろんです」
あの赤い羊事件で活躍されていた刀川葵さん。
遂にお会いしてしまった。
クールというか何と言うか、厳しそうで、少し怖い印象のある人だ。
「では、財前さんの所属部署へとご案内致します」
「はい」
「一応お伝えしておきますが、新入社員を私が案内するなんて事はそうそうありません。これは財前さんが奏海から期待されているが故です」
「は、はい!」
「奏海からの期待を裏切らないよう、お願いしますね」
私は奏海さんに期待してもらえているのか……
社長秘書である彼女に案内していただけるなんて、こんな光栄な事はない。
これはもっともっと、気を引き締めないと!
「あ、あの……ここが私の職場ですか?」
「そうですね、鍵はこちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
職場として案内されたのは、高層マンションだった。
入り口からは楽しそうなご家族が出ていったし、普通にここに住んでいる人達がいるんだろう。
まさかそんな場所に、スノーフレークの職場があるだなんて……
「7階のこの部屋、まぁ隣でも構いませんが、このマンションの7階が財前さんの職場となります」
「7階は全て、スノーフレークの管轄という事ですか?」
「そうですね。そしてあなたの上司となる者は、大体この部屋にいることが多いです」
「分かりました」
私の心の準備が出来た事を察してくれたようで、葵さんが扉を開けてくれた。
「みー、連れてきたわよ」
「うぃー、そーたー? 出迎えてあげてー」
「はい」
奥の部屋の方から声が聞こえたと思ったら、
「お待ちしてました。財前凛緒さんですね」
と、高校生くらいの男の子が出てきてくれた。
見るからに高校生だけど、スノーフレークの人はわか見えの人も多いし、この人が本当に高校生かどうかは分からない。
「はい、今日からよろしくお願いします」
「こちらこそです。僕はななさんの助手をしている、青島創太と言います。助手といっても、ご飯の用意とかお風呂掃除とかの雑用ですけど」
「そ、そうなんですね……」
「こちらへどうぞ」
創太さんは優しく笑って奥へと促してくれた。
スノーフレークの職場とはいっても、やっぱりマンション。
もっと事務所的な場所かと思えば、普通に生活していけるような部屋だ。
そして、一番奥の部屋へとくると、カタカタとパソコンに向かっている女性が1人……
この人が私の上司……あれ? この方……?
「ななさん、財前さんがみえましたよ」
「ほーい」
「みー、来るって言ってあったでしょ? 何してるの」
「ちょっとね……うん、よし。改めてどうも」
創太さんと葵さんから呼ばれて、顔をあげて下さった女性……
やっぱり、間違いない。
「あ、あの……? もしかして、金本実梨さんですか?」
「えっ?」
「すみません。私、以前にあなたの論文を読んだことがありまして……受賞の際のニュースからお顔も覚えておりましたので……」
「おー!」
「なるほどね」
「ふふっ、名乗る前に正体がバレたのは初めてよ。あなた、面白いわね」
「いえ、そんな……」
私の発言に創太さんは驚き、葵さんは納得したように頷いておられ、実梨さんは楽しそうに笑われている。
ただ自分の好きな人を覚えていたというだけで、こんな反応をしてもらえるだなんて……
「ななさんって、本当に有名人だったんですね」
「ちょっと創太。何よその言い方」
「だって名前を隠してるような有名人のくせに、顔は全然隠さずに出掛けたりするじゃないですか」
「私は、名前が有名なの! 顔なんて、ニュースで小さいのがすこーし放送されちゃったくらいだから、覚えられてる事なんてそうそうないのよ」
「でも、覚えられてましたよ?」
「だから凛緒はここの所属になったのよ」
「羨ましい限りです」
「創太も頑張りなさいな」
「はい」
創太さんと実梨さんが楽しそうに話している。
助手だと言っていたけど、恋人なんだろうか?
でも、そういう感じでもないし……
それにさっきから呼び方が気になる。
「先ほどから創太さんが仰られているななさん、というのは?」
「私の偽名? かしらね。これからは凛緒もそう呼んで頂戴」
「分かりました。これからよろしくお願い致します、ななさん」
憧れの奏海さんの作られた会社、スノーフレークで、実梨さんにまで会えるだなんて。
これからは私も、ここでスノーフレークの一員として頑張っていくんだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




