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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode7 開かずの蔵と記憶編

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231/425

剥奪

凛緒視点です。

「これでもう、完全に終わっただろ? 俺は行くからな」

「いいえ、まだよ!」

「ったく、俺だって暇じゃねぇって言ってるだろ?」

「それなら、早急に答えてちょうだい」


 フクと奏海さんの関係が気になる。

 でもそれは、依頼人の私には知る権利のない事だ。

 だから聞く訳にはいかない。

 でも……


「フク、あなたの名前を教えて」

「あ?」

「私を恩人の名前も知らない恥知らずにするつもり?」


 名前くらい、聞く権利はあるはずだ。

 私はちゃんと、フクの事を知りたい。

 スノーフレークの副社長であるという以外の、フクの事を。


「……俺に名前なんてもんはねぇ」

「どうしてそこまで教えてくれないの? 私の事が信用出来ないから? 私は"フク"に……いいえ、"あなた"に正式に感謝を伝えたいだけなのよ?」

「信用云々は関係ねぇし、感謝なんざする必要もねぇ。俺は仕事をしただけだからな。恩人の名前? んなもん、スノーフレークでいいだろうさ」

「良くないわ」


 目の前の男性の目をしっかりと見つめて言うと、少し困ったように目を逸らされた。

 もしかすると、奏海さんから名乗らないようにとでも言われているのかしら……?

 それなら無理に聞き出すのは申し訳ない……と、思っていると、


「凛緒。この世にはな、2種類の名前のねぇ奴がいるんだ。分かるか?」


と、逸らした視線をもどし、私の目をしっかりと見返して聞いてきた……


「2種類? いえ、特に思いつかないけれど……」

「はぁ……1つはな、そもそも名前をもらっていない奴だ。産まれてすぐに捨てられたとかのな」

「……なるほどね。残念な事だけれど、そういう人がいる事は私も分かっているわ」


 フクは自分がそうだと言いたいのかしら?

 ……いいえ、それは違うでしょう。

 もし孤児だったというのであれば、奏海さんがその状況を放っておくわけがない。

 きっと新しく名を与えてくれているはずだ。

 となれば後者、まだ教えてもらっていないもう1つの理由。


「もう1つは、なんなの?」

「……名を、失った奴さ」

「失う? 記憶喪失で、自分の名前が思い出せない人の事?」

「それは忘れてるだけで、名前はちゃんとあるだろ」

「それなら、一体……」

「名を自分で捨てたにしろ、奪われたにしろ、本来の名を失った奴というのが存在している」

「う、奪われるって……?」

「勘当された奴とか、()()とかの事だ」

「罪人……」

「罪人に名前なんてものはねぇ。罪を犯した奴は、名を剥奪され、囚人番号という識別をされる存在になるのさ」


 ……彼が何を言っているのかが分からない。

 分かりたくない。


「スノーフレークはな、お前が思うようなキラキラとした楽しい組織じゃねぇぞ。罪人だろうが利用価値があれば利用する、そんな頭のイカれたガキが立ち上げた会社だ」

「で、でも……あなたは、"副社長"だって……」

「副社長ってのは、俺にとって囚人番号と変わらねぇ。スノーフレークは監獄。副社長室ってのは、ただの俺の牢屋に過ぎない」


 奏海さん、乃々香さん、四ノ宮主任……

 皆、副社長の事を副社長と呼んでいた。

 それは当たり前の事だし、そこまでの違和感を感じてはいなかったけど……

 でも奏海さんは、副社長以外を名前で呼んでいた……

 あれが、そういう事だったのなら……


「これで分かったろ? 俺に名乗れる名前なんてもんはねぇのさ。これを聞いてもなお、お前がスノーフレークに入社したいと思うのなら、好きにすればいい。じゃあな」


 私の横を通り過ぎる彼は、少し小さな声で、


「もう、会うこともねぇだろうさ……」


と、呟くようにいいながら帰って行った……

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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