今後の生活
凛緒視点です。
フクの話を聞き、何も守られてなんていないとずっと思っていた私がいかに愚かだったのかを知った……
私は、憎まれている事にも気づかずに、私を憎んでいる叔父様を味方だと思い、守られている事にも気づかずに、私を大切にも思ってくれていた七緒を敵だと認識していたんだ……
こんなバカな話が、他にあるだろうか?
「もう1つ聞かせて下さい」
「まだあるのかよ……」
私が己が愚行を恥じていると、七緒がまたフクに質問をした。
フクは呆れたように七緒を見ている。
用は済んだのだからと、帰りたくてしょうがないんだろう。
スノーフレークを粗雑に扱っているような態度ではあったけど、やっぱりスノーフレークが大切な場所なんだな……
「何故、凛緒さんの記憶力の事にまで気付けたのですか? それは雄治郎さんですら、気付いていなかったのですよ?」
七緒はそれを気にしていたのか……
確かに私は、お祖父様との約束をずっと守って、誰にも気付かれないように行動していた。
記憶力がいいのだと誰かに自慢したりした事も一度もない。
スノーフレークの仕事中、エリンさんに褒められた事は一度あったけど、それでここまでの記憶力だと気付く事は不可能だろう。
「あ? さっきも言ったろ? 凛緒の様子で分かるんだよ」
「ですから、その詳細をと言っているのです! 今後の凛緒さんの生活にも関わってくる問題なのですから!」
「ったく……」
珍しく七緒が大きな声をあげた……
私の今後の生活のため、か……
「まず、凛緒の目の動きだな」
「目の?」
「お前は、常にあちこちを見ている。喫茶店でメニュー表を見ていた時もそうだが、視線が1ヵ所に定まらない」
視線が1ヵ所に?
フクが言っている事がよくわからない……
確かに私は、一度見たものはすぐに覚えてしまうから、メニュー表も一目見た時点で書いてある全てのメニューが分かった。
でも、普段から記憶力についてを気付かれないようにとしていたから、メニュー表を次のページに捲るまでの時間もとっていたし、そんなに不自然さはなかったはずなのに……
「大抵の奴はな、メニューに悩んでたら、悩んでるそのメニューを凝視するもんだ。どっちにしようかと迷ってな」
「そんなの……」
「あぁ、もちろんそれだけで決めた訳じゃない。だがお前は、街を歩いている時も、始めてのホテルについた時も、全体を見渡しただけだった。もう覚えたから見る必要はないってな」
そういう事か……
私は一度見ただけで覚えれてしまうからこそ、一点を集中して見るということをしないんだ。
気になったものをじっと見るというような、誰もがとる行動をしない。
「……そんなに私の目の動きを見ていたのね」
「護衛対象なんだから、当たり前だろ」
「もっと敵の方に注視しなさいよ……」
「悪いが俺は敵担当じゃなかったんでな。護衛対象がどうして狙われるのかという理由を探る方が重要なんだ」
「フクの他に、敵担当がいたの?」
「あぁ、乃々香だ」
乃々香さん……
私の事を盗聴してるとか言っていたし、ずっと見守ってくれているというのは分かってたけど、まさか敵担当だなんていう危ない事をされていただなんて……
直接お会いしていない人だからこそ、余計に申し訳なさを感じてしまう。
「それから、さっきも言ったが、知り合いに似たようなのがいるんだよ。何でも一度見聞きしただけで覚える奴がな。そいつの言動と凛緒が似てたから気付けただけさ。別に凛緒が気付かれ易い訳じゃねぇし、今後も今まで通りの生活で問題ないだろ」
「そういう事だったのですね……分かりました。ありがとうございます」
七緒はフクに深々と頭を下げてお礼を言った。
もう聞きたい事は完全になくなったんだろう。
私はまだ、聞きたい事だらけなんだけど……
「ねぇ、その知り合いの方って、奏海さんではないのよね?」
「あ? あぁ。奏海も記憶力はいいが、そんな一度の見聞きで覚えるなんて事はないな。あいつは普通に覚えてる」
「それはそれで凄いと思うのだけれど……」
「そうだな……まぁ、あれはバケモンだ」
「……失礼な事を言わないで頂戴」
「へいへい……」
フクが十分に凄い人だというのは分かった。
でもやっぱり、どうしてこんな失礼な人を副社長としているのかを疑問に思ってしまう。
奏海さんとフクの関係が気になってしょうがないわ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




