心配
凛緒視点です。
今日、七緒は最初から私に話をする準備が出来ていた。
フクも約束があると言っていたし、フクと七緒が先に会って話していたという事は分かる。
その時にどういう話をしたのかなんて分からないけど、七緒がフクに対してペラペラと何でも話したとは考えにくい。
となれば、フクの方から気づいた事を確認するように話したんだという事までは簡単に想像できていたけど、まさかフクが最初に七緒と会った時から、私の産みの親だと気付いていただなんて……
「何故分かったのですか? あんな、まだ財前家の事を調べ始めてすぐで、情報も何も得られていない状態だったはずなのに……」
七緒からの質問に、フクは心底面倒くさいという様子でため息をついた。
「そんなの、もうどうでもいいだろ」
「どうでもよくありません!」
「そうよ、ちゃんと説明して」
視界の端に意気消沈している喜和子さんが見えたけど、気にしない。
完全に空気扱いをして、七緒と2人でフクに詰めよった。
「……心配の仕方だよ」
「心配の仕方?」
「そもそも、最初に凛緒と話した時点で、おかしな事がいくつかあった。その疑問を合わせた上でのあの心配の仕方を考えりゃ、雄治郎の方が凛緒に危害を加えようとしているというのがすぐに分かる」
「え? 私の話で……」
最初にって、あのお店で依頼内容の確認をした時の事よね?
あの時、フクは叔父様への電話にとても失礼だったけど……?
「叔父様が私に危害を加えようとしていると分かっていたから、あんなに失礼な電話の仕方だったの?」
「いや、そうじゃない。あんな失礼な奴が電話に出て、凛緒を預かると言って来たのにも関わらず、凛緒を心配しなかったから分かったんだ。この叔父様とやらは、凛緒に危害を加える側の人間だとな」
叔父様が私を心配しなかった……?
あんなに心配して下さっていたのに……?
「電話じゃ相手の様子も何も分からない。本当に凛緒を守れる奴なのかも、なんなら本当にスノーフレークの奴なのかも分からない。それなのに任せると言えるのは、聞いていて知っていたからだ」
「聞いていて……そう、あの盗聴器も叔父様が犯人なのね……」
私がフクをスノーフレークの人だと確信を持てたように、話を聞いていた叔父様も確信したんだろう。
思い返せば、ホテルからフクが出ていってすぐに、私を心配するようにあの男は大丈夫なのかと電話してきた……
あれもフクのあの演技を聞いていたからこそだ。
「それに対して七緒。お前は俺を疑った」
「えぇ、怪しさしかありませんでしたから」
「加えて言えば、凛緒の声を聞きたがっただろ?」
「そう、なの……?」
「スノーフレークかどうかを疑っていたり、他の蔵を狙った存在を気に掛けていたりするのであれば、まずは俺の事を知りたがるはずだ。それこそ、スノーフレークであるという証明でも何でも事足りる。だが、凛緒の無事を確認するためには、凛緒本人の声を聞く必要がある」
私の口から、フクを雇った事、フクに財前家に入る許可を出した事を聞いて得られる情報は、フクがどこの誰で何故いるのかという事だけじゃない。
私の無事も分かるんだ……
「それに凛緒の最初の話から、財前家内に凛緒の味方がいる事は分かっていたからな。それがあんたなのか、あそこのババアなのかは来るまで分からなかったが、来たら一目瞭然だった。まぁ、あのババアは論外過ぎる」
「なるほど……明らかにこの財前の家を狙っている私が、凛緒さんを守ろうとしている事にすぐに気がつけていたのなら、確かに産みの親であると想像する事は容易いでしょうね」
「あぁ」
「ちょっと待って! 私の話から味方がいる事が分かってたって……」
「お前、言ってたろ? 飯の中に変な錠剤が入ってたって」
「え、えぇ……」
「余程のバカでもない限り、そんなもんには確実に気付く。普通飯に混ぜるんなら、粉薬にするだろ?」
そうか……
あれは、私に危害を加えようとした結果のものではなくて、注意喚起だったんだ。
この家は敵だらけだ、油断してはいけない、という……
私にも知られないようにと、七緒は私をずっと守っていてくれたんだな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




