供述
凛緒視点です。
「さてと、もう用はなくなった事だし、俺も帰るわ」
「えっ……」
「依頼達成でいいだろ? お前を狙っていた奴は捕まったし、狙われる原因だった蔵問題も解決した。お前はもう自由なんだ」
「そ、それは、そうだけど……」
「あとは好きに生きりゃあいい。スノーフレークに入社するとしても、今までの実技を評価してもらえるだろうから、難なく入社出来るだろうし」
スノーフレークに入社させてもらえるというのは、この上なく嬉しい事ではあるけど、フクに帰られるのは困る。
まだ何もちゃんと聞いていないんだから。
「帰る前に、ちゃんと説明して頂戴よ! そもそもどうして叔父様が……」
「警察に供述している話を纏めるとだな、嫉妬だ」
「嫉妬?」
「お前が爺さんの実の娘であるというのは、雄治郎には知らされていなかった。だが、爺さんの態度のおかしさを見て、気付いたそうだ。それが、孫に向ける笑顔ではないことに」
「……」
お祖父様は財前家の後継者として、叔父様にはかなり厳しくされていたというのは聞いた事がある。
その点私は、家を継ぐ気もなければ、家に留まる気もなかった。
それは既に叔父様という後継者が決まっていたからというのと、私が後継者争いに関係のない孫だったからだ。
でも、実子だったとなれば話は違ってくる。
母親が違うとはいえ、財前家本家の血筋。
私と叔父様は立場が一緒だ。
それなのに私にはとことん甘く、叔父様には常に厳しくあったのなら、叔父様が私に嫉妬するというのも頷ける……
その上、蔵の開け方も私にしか教えていないし……
「幼い頃から、兄が優秀だったそうだ。だから常に比べられ続けてきた。兄は期待され、自分は何の期待もされない……そんな中で育ってきたのに、急に兄が亡くなり、後継者だなんだと持て囃された」
「それは……」
「しかもそこで、兄の忘れ形見だと現れていた姪が妹だと知ってしまい、自分には向けられる事のなかった愛情や期待といったものが、爺さんの関心そのものが全てお前に向けられていたんだからな。まぁ、境遇には同情する」
叔父様はきっと、ずっと私を恨んでいたんだろう。
私が気付かなかっただけで……
「あとまぁこれは余談だが、今回の件がこれだけ長引いたのは、爺さんが凛緒に向ける笑顔や優しさと同じようなもんを、俺が奏海に向けていると勘違いしたかららしい。本当だったら、俺が奏海を裏切っているとして、早々に俺に連絡してくるはずだったんだがな……」
それは勘違いではないでしょう。
私とお祖父様の関係を知らなかったのに見抜いた叔父様なのよ?
きっと、どこからどう見ても、フクが奏海さんを大切に思っているというのが分かってしまう感じだったのね。
さっきもとても仲良さげに話していたし……
「私からも聞かせて下さい」
「あ?」
私が少し考えていると、七緒がフクに向き直った。
「あなたは最初、この家に訪ねて来たあの時に、私が凛緒さんの母親である事を見破ったと仰っていましたね?」
「えっ、そうなの?」
「あぁ」
「何故分かったのですか? あんな、まだ財前家の事を調べ始めてすぐで、情報も何も得られていない状態だったはずなのに……」
最初にこの家を訪ねて来た時というと、私とフクが出会った日だ。
確かに先に担当者だと現れたお兄さんにも財前の話をしていたとはいえ、詳しい事は何も話していなかった。
ホテルの部屋で、盗聴器は七緒が仕掛けたものだろうと私が疑っていた事も知っていたはずなのに、どうして七緒が私の本当の母親だなんて思えたんだろうか?
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