蔵の開け方
凛緒視点です。
喜和子さんはまだ部屋にいるけど、気にしないで話を進めていく。
「まず、凛緒さんに思い出して欲しいのは、正宗さんが見せた、たくさんの絵よ」
「絵? どの絵ですか?」
お祖父様は本当にたくさんの絵を見せて下さった。
だからどの絵の事なのか分からない。
もちろん全ての絵を覚えているけど……
「正宗さんが描いた絵よ」
「それもたくさんあります」
「そうなのね。まぁ仮に正宗さんが描いた絵が鍵だと気付く人が現れても、どの絵かを分からないようにしていたんでしょうね」
「それで、どんな絵なんですか?」
「白い背景に、黒い歪な線や点だけで書かれた絵よ」
白い背景に歪な黒の……あぁ、確かにある。
でも、それでもかなりの枚数だ。
「もう少し特徴を絞れませんか? 今のままだと、50枚はあるんですけど?」
「私が聞いた話だと30枚くらいだったから、きっとダミーもあるのね。えっと、そうね……多分、端にサインか何かを残してると思うわ」
端にサイン……?
「35枚くらいまでは絞れました」
「ならもうそれを描け! 元々30くらいだってんなら、35でもそんなに変わらねぇよ」
「えっ、まさか私が書いて再現するの?」
「そりゃそうだろ」
「物置小屋から同じ絵を探すのではなくて?」
「残念だけど、絵は全て私が燃やしました……」
「は?」
「ちょっとあなたっ! なんて事を!」
七緒の言葉に、喜和子さんが掴みかかるようにして叫び出した。
でも、私も納得できない……
お祖父様の絵を燃やすだなんて……
「申し訳ございませんが、私も凛緒さんと同じ。蔵が開こうが開くまいが、どうでもいいんです。雄治郎さんは絵が鍵だという事に気付きかけていましたし、凛緒さんを守るためには燃やす他なかったんです……正宗さんの、大切な作品である事は分かっていましたが……」
七緒は本当に辛そうだ……
七緒にとっても、最愛の人の描いた作品を燃やすというのは、相当に苦しい事だったんだろう……
「なぁ、雄治郎が気付きかけてたって、本当か?」
「はい……」
「ふっ、ならあるかも知れねぇな」
「……はい?」
「だから絵だよ。雄治郎だって、あんたが絵を狙ってると思ってたはずだ。だったらすり替え位してるさ、あいつなら」
「……フク?」
「雄治郎の部屋はどこだ? 俺が探す」
「私が案内するわ、こっちよ」
「おう」
そうしてフクを叔父様の部屋へと連れてくると、フクはポケットに仕舞われていた手袋をはめて、叔父様の部屋をあさり始めた。
その姿はまるで、警察の鑑識の人みたいだ。
どことなく楽しそうに見えるけど、さっきの私と七緒の会話は、そんなに聞いていてつまらなかったんだろうか?
「お、あったぞ」
「えっ! 嘘……」
私がそんな事を考えている間に、フクはあっさりと絵の束を見つけてしまった。
隠し金庫の中だったというのにも関わらず……
「ちょっと、ちょっと見せなさいよ!」
「あんたが見たって分からんだろ」
ずっと部屋の外から様子を見ていた喜和子さんは、絵が見つかったと聞くやいなや、飛び込んできた。
本当に、行動力だけは凄いと尊敬する。
「ほら、凛緒。この束から、お前の記憶と一致する35枚を見つけ出せ」
「え、えぇ……」
そう言ってフクが渡してきた紙の束……
100枚近くはある……
全く……いくら全てを覚えているとはいっても、記憶と一致させるのは結構大変だというのに……
こっちの苦労も少しは考えて欲しいものだわ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




