後継者
凛緒視点です。
「それで、私のどの記憶が、蔵の開け方なんですか?」
「あ、そうね……」
七緒は残念そうに俯いた。
私がこの話を早く終わらせて、こんな場所からは出ていきたいと思っている事が分かったんだろう。
七緒を母親だと思う気がない事も。
「そ、それは……」
「ちょっと待て。あれはそのままでいいんだな?」
「……お気遣いありがとうございます。ですが、問題ありません」
「そうか」
さっきから急かしていたフクが珍しく止めて、七緒に何かを確認していた。
そんな2人だけで分かっているような会話をされるのは、私にとって気分がいい事ではない。
「ねぇ、あれって何?」
「あれだよ、あれ」
「だからあれって……」
フクは何もない襖の方を指差すだけだったので、あれがなんなのかが良く分からなかったけど、襖に遮られているその奥を指しているのだと分かった。
気になるので、その襖を開けると……
「あうっ……」
「……喜和子さん」
私が襖を開けると、私の話相手としてずっとこの財前家本家に居座っていた喜和子さんが転がってきた。
大方襖に耳をつけるようにして、私達の話を盗み聞いていたんだろう。
だから急に開けられて、体勢を崩したんだ。
「あ……あ、あらあら、ごめんなさいね。お茶をお出ししようと思っていたのだけれど、タイミングが分からなくてね」
「見て分かりませんか? お茶は既にあります」
「えっ、えっと……」
「別に堂々と居て下さっても構いませんよ。あなたがいたところで、何が変わる訳でもありませんし」
「な、なんですって!?」
七緒の冷たい言葉に、喜和子さんが顔を真っ赤にして怒った。
「あなたね、私を誰だと思っているの! 私は財前の直系なのよ! いくらあなたが正宗さんの妻で、そこにいる凛緒が正宗さんとあんたの子供だとしても、雄治郎ちゃんのいなくなった今の財前を支えていくのはうちの子なんですからね!」
「はぁ……」
「何よそのため息は!」
「支えていくですって? ただ、財前を自分のものにしたいだけでしょうに……」
「……ふん! どうとでも言いなさいな。どのみち蔵が開いたら、中のものは全てうちのものなんですから」
「そうはなりませんよ」
「はぁ?」
七緒は封書を取り出して、喜和子さんに渡した。
何が書いてあるものなんだろうか?
「な、な、な……これは……」
「えぇ、そうです。正宗さんが書いた、正式な書類です。既に弁護士先生方にも認めてもらっております」
「こんなものがあるなら、どうして正宗さんが亡くなった時、すぐに出さなかったのよ!」
「それはまぁ、凛緒さんが望んでいないと思いましたので……」
「私? それは私に関係があるものなんですか?」
急に私の名前が出た事で気になって聞くと、七緒は震える喜和子さんの手からさっと書類を抜き取り、広げて見せてきた。
「これは、正宗さんが用意した、この財前家の正当な後継者を示すものです」
そこには私の名前が書いてあった……
つまり、私がこの財前家の後継者……
「あなたを守るための武器は少しでも多い方がいいですからね。正宗さんがこれを用意して下さったの。でも凛緒さんは、この家に興味がなかった」
「……そうですね」
「だから使いませんでした。凛緒さんが望むような、自由な生活をさせてあげたかったから」
「……」
「ですが、事がこうなれば、使わせてもらいます。これで蔵が開いても、その中のものは全て凛緒さんのものになるんですから」
「な、な……」
喜和子さんはかなり狼狽えている様子だったのに、すぐに気持ちの悪い笑みに変わって、
「凛緒ちゃん? うちの子と凛緒ちゃんは7つしか変わらないわ。どうかしら? 全く知らない中でもないし、今度お食事でも……」
あぁ、気持ち悪い……
私が後継者だと分かると態度を変える……
「えぇ、そうですね。全く知らないなんて事はありません。いの一番に私の部屋のものを壊したのが彼ですからね。とても楽しそうなあの笑顔。探す事より壊す事を楽しんでおられるかのようで、とても印象に残っていますよ」
「そ、それは全部弁償致しますわ。あの子も好きな凛緒ちゃんの部屋に入れて、テンションが上がってしまっていたのよ。許してあげて?」
「無理です」
「……」
「おいババア。別に居てもいいから、しゃべらねぇでくれるか? 話が進まねぇ」
「……」
フクの声もあって、喜和子さんは完全に黙った。
一応まだ部屋にはいるけど、気にする必要はないだろう。
これでとりあえずは、邪魔者なく話を再開できる。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




