記憶力
凛緒視点です。
「おい、いつまで思い出話をしているつもりだ? 俺だって暇じゃないんだぞ? さっさと本題に入れ!」
「はぁ、あなたは本当に失礼な方ですね……」
「私もフクに同意します。早く蔵の話をして下さい」
「分かりました……」
私を守るためだったとか言う戯れ言に興味はない。
申し訳ないとは思うけど、やっぱりこの七緒の事を母親だと思うことは出来ないし、さっきのから聞いていた七緒の話にも関心が持てなかった。
私はここに蔵を開けるために来たんだから、早く蔵を開けて終わりにしたい。
叔父様のいなくなったこの財前家がどうなるのかなんて、そもそも財前家を出ていくつもりだった私には、関係のない事なんだから……
本当に関係ない……
こんな話、聞きたくもなかったのに……
「蔵の開け方は……凛緒さん、あなたが知っています」
「は? 知りませんけど?」
何を言い出すかと思えば……
「いえ、あなたは知っているんですよ。でもそれを、蔵の開け方だとは認識していないんです」
「……どういう事ですか?」
「……あなた、隠している事があるでしょう?」
「……ありませんけど」
「いえ、あるわ。そしてそれを知っているのは、あなたにとっては正宗さんだけのはずだと思ってる」
……あの事は、お祖父様が私に秘密にするようにと言ったんだ。
絶対に誰にも言ってはいけないと……
知られれば変な事に利用されるかも知れないし、余計なトラブルも増える事になる。
だからずっと隠すようにと……
「凛緒。お前、瞬間記憶能力があるだろう?」
「……フク」
「一度目にしただけ、耳で聞いただけ、そんなものを全部記憶してる。そうだな?」
「どうして?」
「お前の部屋を見た時や、お前の生活態度。それにスノーフレークでの働きぶりを見ていれば分かる。お前は覚えがよすぎるんだ」
「……」
「それにな、知り合いにもお前と同じ奴がいるんだ。そいつと似てたからすぐに分かった」
「そうだったのね……」
まさか、ずっと気付かれていただなんて……
ここは流石スノーフレークの副社長さんだと褒めておくべきところかしら?
でも今のフクの語りを聞いても、七緒に全く驚いている様子がない。
フクは自力で気がついたにしても、七緒はそうじゃないだろう。
きっと、お祖父様から聞いたんだ。
それはやっぱり、七緒が私の本当の母親だから……
「正宗さんは、あなたに沢山の事を教えたはずよ。幼少期からずっとね」
「そうですね……」
「普通、そんな幼い頃の記憶なんて、誰もが忘れてしまう。印象深かったことなら覚えているでしょうけど」
「……」
「でも、あなたは違う。幼少期からの事も全て、覚えているのよね? だから思い出せる」
幼少期に私に蔵の開け方をそれとは知らせずに教えていたということか……
そして、それが蔵の開け方だと説明するための人物を七緒にした……
あぁ、本当に迷惑なお祖父様……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




