思い出話
凛緒視点です。
急に帰って来ることになった財前家。
そしてそこで私を待っていたのは、あろうことか七緒だった。
「フク、これはどういう……?」
「お前は爺さんの孫じゃない、娘だ。で、母親はこの七緒」
「は?」
「ちょっと副社長さん? ものには順序というものがあるでしょうに……」
「んな事知るか! 俺は忙しいんだよ。お前等の感動の家族の再会に付き合ってる余裕はねぇ!」
……フクは何を言っているのかしら?
私がお祖父様の孫ではなくて、娘で、七緒が母親?
お祖父様と七緒の子供が私?
何がなんだか分からない……
「凛緒さん……その、今まで黙っていてごめんない。全て話します。聞いて下さる?」
「……」
「おい凛緒!」
「えっ!」
「いつまでも突っ立っててもしょうがねぇだろ。そこ座れ」
「は、はい……」
フクに促されるまま、七緒の対面となる席についた。
フクは私達の様子に興味がないようで、
「話し終わったら起こしてくれ」
と、部屋の端の方で横になって寝てしまっている。
本当に寝ているのかどうかは分からないけど、何よりもどうしてこの財前家でさも自分の家かのように寛いでいるのかが理解出来ない……
「まずは今までの事を謝罪します。本当にごめんなさい」
「……何を謝られているのか分かりません」
「あなたに何も話さなかった事、あなたを怖がらせるような振る舞いをしてきた事、そして何より、私の力であなたを守りきる事が出来なかった事です。本当に申し訳ございませんでした」
フクの事を無視して話し出した七緒は、私の知っている七緒とは別人だった。
今まで自分はお祖父様の妻だと騒ぎ、自分にもこの家で過ごす権利があるのだと騒いでいた姿からは想像も出来ないくらいにしおらしい……
推しとやかなお嬢様、そんな単語がよく似合う女性だ。
「先ほど、そこの副社長さんが言ってしまいましたが、あなたの産みの親は私です。そして、父親が正宗さんです」
「……」
「急に受け入れるのが無理な事は私も分かっています。これだけの事をしてきておいて、今さら母親だと思って欲しいというのも烏滸がましいですし……」
「……」
「ごめんなさいね。まずは先に、どうして今の状況になっているのかを説明します」
私は何も返事を返していないけど、七緒は私の顔を見て話してくる。
それも私の気持ちを考えてくれているみたいだ……
「あれは私が7歳の時でした。親と喧嘩した私は、泣きながら神社に逃げ込んだんです。そこで、10歳歳上の正宗さんに会いました」
まさかの2人の出会いから話されるとは……
興味ないといったら失礼だろうか?
「正宗さんは私の話をたくさん聞いてくれて、私はそれが嬉しくて……それからも何度も神社に通って、正宗さんとたくさんお話したんですよ」
「……そうですか。私はいつ登場するのでしょうか?」
「あぁ、ごめんなさいね。えっと、正宗さんが結婚してしまったというのを知った時はとてもショックだったんですけどね。それでもやっぱり私は正宗さんの事が好きだったから、彼の元で働きたいと思って、あの会社に就職したの。そして秘書となって、正宗さんの近くで働けるようになったんです」
少し頬を赤らめながら話す七緒に対して、ただのストーカーとしかも思えないのは、私が七緒を母親だとは思えないからなのかしら?
「正宗さんは幼い頃の少女だと、すぐに気付いてくれたんです。そして、私の気持ちも受け入れて下さって、あなたを授かる事が出来たんですよ」
私の年齢から考えれば、その話の当時は既にお婆様は亡くなっておられるから、不倫関係だったという訳ではなさそうね。
まぁ、あのお祖父様に限ってそんな人ではないと思うけど……
七緒の話に対して、さっきから私は第三者目線でしか考えられていない。
当事者だというのにな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




