エスコート
凛緒視点です。
「ねぇ! ちゃんと説明して頂戴!」
「いいから、取りあえず乗れ!」
フクに促されるままに、ホテルの外で待機していた車へと乗り込んだ。
「随分と荒いエスコートですね」
「うるせぇ。さっさと出してくれ」
「かしこまりました」
後部座席に私が座り、助手席にはフクが座っている。
運転しているのは、綺麗なスーツ姿の男性だ。
……ん? この人、見覚えが……
赤い羊の件以降、奏海さんは隠れるという事をされなくなった。
だから色んな記者が奏海さんの私生活を暴こうと、常に追っている……
その中の1つ、雑誌に掲載されていた写真の端に、この人が写っていたんだ。
「あの? 奏海さんの運転手の方ですよね?」
「あぁ、はい。申し遅れました。私は日下部といいます」
凄く丁寧な人……
誰かさんとは大違い。
「どこへ向かっているんですか?」
「財前様のお宅ですよ」
「うちへ?」
「言ったろ? 蔵を開けるって」
「えぇ……」
それは確かに聞いたけど、まだ説明して欲しいことは何も聞いていない。
そもそもどうして叔父様が……
「叔父様が捕まったのは、どういう事なの?」
「めんどくせぇから後でまとめて話す」
「ちょっと!」
「俺は言ったよな? 覚悟しておけって。お前はそれなりの覚悟をしたから、俺に携帯を渡したんだろう? だというのに、まだ覚悟が出来てなかったのか?」
「それは……そうね、覚悟が足りていなかったみたいだわ」
まさか叔父様が捕まるだなんて……
しかも、さっきのフクの話では、私に危害を加えようとしていたのは、叔父様だったと……
叔父様は、叔父様だけは信じてくれているって、私の味方なんだって思っていたのに……
「ったく、凛緒が駄々をこねるせいで、約束の時間に遅れちまう……」
「え?」
「いえ、それは凛緒様のせいではなく、副社長が行きたくないと言って駄々をこねたせいですよ。ホテルに付いてから凛緒様が出てこられるのは、本当に早かったですからね」
「俺が急がせたからな」
急がせたって、無理やりに引っ張ってきたんじゃない。
でも、今の会話……少し気になった……
「フクは行きたくなかったの?」
「あ? あぁ、あいつを片付けた以上、俺のボディーガードとしての仕事は終わったんだ。あとの事は俺じゃなくてもいい」
「それで、行きたくないって……?」
「本来俺は、外に出ないんだよ……それなのに奏海が行けっていうから、仕方なく……」
「今回の件を一番理解しているのは副社長ではありませんか。副社長が行かれるのが筋かと」
「あいつ等の理解力なら、誰が行っても同じだろ。全員面倒事を人に押し付けただけだ」
「奏海様にはお考えが……」
「ねぇよ」
「あります!」
「その奏海厨はいい加減やめろ」
仲がいいのか悪いのか、フクと日下部さんは言い合いをしている。
状況を全く理解していない私には、ついていけない……
「急いでくれよ。約束を破るのは嫌いなんだ」
「分かってますよ」
「ねぇ、誰かと会う約束をしているんでしょう? それなのに、どうしてうちなの? 誰と会うの?」
「会えば分かるだろ」
「もう……」
車の中では何を聞いてもそんな感じで、全くまともに取り合ってくれなかった。
そして到着した財前家……
家の門の前には、大量の取材人がいた……
「どうぞ、こちらから……」
「あぁ、あとはまかせた」
日下部さんが車から降りて取材人を相手にしてくれている間に、私とフクは財前家へと入った。
そして、待っていたフクの約束の相手……
「待たせたな」
「えぇ、お待ちしていましたよ」
七緒が私に向かって笑って来た……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




