居るべき場所
副社長視点です。
秘書達も叔父も連れていかれて、この場には瀧沢と空音、柚希、俺だけになった。
あいつ等が人気のない場所を選んでくれていたお掛けで、周りに人は全くいない。
俺達の話を変に聞かれる事もないだろう。
「上手くいってよかったよね」
「そうですね。叔父様も、あっさりとあの秘書を庇って下さいましたし」
「空音、凛緒真似はもういいぞ」
「へーい」
本当に、すぐに庇ってくれてよかった。
あの秘書を名乗っていた男が主犯である事には証拠がいくつもあったが、叔父の奴にはなかったからな。
自分とは無関係に秘書が勝手にやっていた事だと、逃げられる可能性もあった。
まぁ逃がす気なんぞは毛頭ないが。
あの2人は金の関係のようで、信頼している仲間というわけではないだろうとは思っていたが、ああもすぐに庇った辺りから察して、どうも秘書の方が立場が上だったんだろうな。
庇わずに秘書だけ捕まえられていた場合の報復でも恐れていたのかもしれないな。
「柚希もありがとな」
「まったくだよ。まぁでも、最近は奏海ちゃんの無茶振りもあって、こっちでの仕事もなかったから、久しぶりで楽しかったけどね」
「そうよね、月城君に会うのは凄く久しぶりな気がするわ」
「僕はずっと海外を渡り歩いていたからね、瀧沢おばちゃんに会うのは本当に久しぶりだよ」
「誰がおばちゃんよ」
「おい柚希! 面倒事を増やすな」
「はーい」
柚希は変装のプロだ。
といっても服装やメイクのプロなだけで、自身が変装して何かをするのが向いている訳じゃない。
だからこそ、声はどうしようもないし、演技がそこまで上手い訳でもない。
今もどこからどう見てもエリンなんだが、声は男らしい低い声だからな。
犯人どもに触られた事にキレて、演技もせずに全員倒しちまったみたいだし……
「こんなに可愛い女の子が2人もいるのに、どっちも男の子だなんて」
「女子会開きます?」
「いや、お前は凛緒の格好なんだから、凛緒に迷惑がかかるだろ」
「なんすかそれ? エリンさんには迷惑がかかってもいいみたいに聞こえるんですけど。副社長は世の中でエリンがこんな声の低い奴だと思われてもいいんすか?」
「別にいいんじゃないか?」
「僕もいいと思うー」
「ちょっと、いくら身内だからって、それはそのエリンちゃんがかわいそうじゃない」
「そうか?」
どのみちエリンは、あのホテルから出ることなんてほとんどねぇんだ。
今がたまたまイレギュラーなだけで。
変な噂が広がろうが、全く何の影響もねぇだろう。
「それにしても、まさか奏海ちゃんがあなたを外へ出すとはね」
「あぁ、俺も驚きだよ。それをあんたが許容した事もな」
「私には何の権利もないわ。奏海ちゃんが出すと言ったなら、それに納得するしかないのよ」
「……でも、反対意見を言う事くらいは出来たんじゃないのか?」
「あら、まるで反対して欲しかったみたいね。それで、どうだったの? 久しぶりの外は?」
「……眩しすぎるな」
「そう」
こういう話になるから、瀧沢とは会いたくなかったんだが……まぁ、こうなってしまった以上、これも仕方のない事だ。
「じゃあ、俺は帰るからな」
「事情聴取があるんだけど?」
「俺が受ける訳ねぇだろ?」
「僕も面倒くさいから受けなーい!」
「あっ、ずりぃぞユズ! それなら俺も……」
「奏海ちゃんに言い付けるわよ?」
「「……」」
誰に対しても失礼ばかりの柚希だが、やっぱり奏海は怖いのか。
瀧沢が奏海の名前を出した事で、大人しく警察に行く事にしたみたいだ。
「ちょっとあなたもよ!」
「はぁ?」
「当たり前でしょ? 今回の件にはあなたが一番関与しているんだから」
「どんな調書を取るつもりなんだ。俺の事なんて書けねぇだろうに」
「書けなかろうが、話は聞くわよ」
「今回の事は空音に全部話してある。俺から聞く必要はねぇ」
「奏海ちゃんに……」
「言いたければ、言えばいい」
「もう……折角久しぶりにお喋りでもしようと思ったのに」
「喋る事なんてないだろ。じゃあな」
瀧沢の言葉を背中で聞きながら、後の事を全部空音に任せて、俺は帰る。
あの、スノーフレークの中にある、俺が居るべき場所へと……
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