看破
財前雄治郎視点です。
「ふふふっ。ありがとうございます、叔父様。それを確認したかったの」
「り、凛緒ちゃん?」
さっきまで震えていた凛緒ちゃんは、急に人が変わったように楽しそうに笑い始めた。
私が背中を支えていたはずなのに、いつの間にか離れてしまっていて、副社長の方へと歩いていく……
「凛緒ちゃんっ! どうしたと言うんだ! 騙されてはいけない! その人達は君を騙して……」
「ごめんなさい、叔父様。騙していたのは私なの」
「は?」
「お願いします」
「確保ー!」
訳の分からない凛緒ちゃんの言葉に反応したように、ぞろぞろとスーツ姿の男達が現れた。
「誘拐の現行犯で逮捕ね」
「誘拐はちょっと……本当にされてた訳じゃないし、事情聴取が面倒だから……」
「まぁ、この場はとりあえず誘拐しかないんだし、誘拐でいいじゃん」
「そうだな」
スーツ姿の男達と一緒に現れた、かなり偉そうな女……
こいつ等は刑事で間違いないようだ。
私も彼も、彼の仲間達も、全員拘束されていく……
その現れた女も副社長の方へと行き、凛緒ちゃんと女装男を交えた4人で、何か話し合っている。
「凛緒ちゃん? これは、どういう事なんだ……どうして私が、誘拐で捕まるんだ?」
「嫌だわ、叔父様ったら。この期に及んでまで、何を仰っているのかしら?」
「こんなのはおかしいじゃないか! 私は誘拐犯から凛緒ちゃんを助けたんだ!」
「そういう演技じゃありませんか」
「な、何故私を信じてくれないんだ……」
いくら凛緒ちゃんがスノーフレークを敬愛しているからといっても、相手は桜野奏海ではなく副社長だ。
そんなに信頼出来る関係を築いていたようにも思えない。
それなのに、何故……
「はぁ、叔父様? あなたは最初、何をしましたか?」
「な、何をって……」
「私の意識が戻るよう、散々揺すってくれましたね。まぁ、強い薬を嗅がせたつもりのようでしたし、確かにそのくらいやらないと起きなかったでしょうけど」
まさか、最初から起きていたというのか?
でもだからといって……
「乱暴に思ったのなら謝る……だけど、私も必死だったんだ!」
「私の意識が戻ったと分かってからの行動も妙でしたね? 明らかに私が捕まっていたのだという状況に納得させてから、私の拘束をほどきました」
「そんな事はっ!」
「ここまでの道中も、ずっと逃げられないようにと捕まえていましたし……」
「あれは捕まえていたんじゃない! 支えていただけだ! 大切な凛緒ちゃんに、これ以上なにかあってはと!」
「大切な、ねぇ?」
凛緒ちゃんは1歩1歩と、私の方へと近づいてきて、
「だったら大切な凛緒の事、見間違えてんじゃねぇよ!」
と、男の声で怒鳴ってきた……
「ははっ、そうか、そういう事か……」
「そういう事だ」
全てを理解した私の呟きを聞いた副社長が、今の理解で正しいのだと肯定してきた。
私達が誘拐した女達は、凛緒でもエリンでもなく、女ですらなかったのか……
「何故、こんな事を?」
「凛緒にあんたの本性を知らせねぇためだよ。凛緒はあの家族の中でも、唯一あんただけは信じていたからな」
「やはり、お優しいのですね……だから嫌だったんですよ」
「……何がだ?」
「あなたに連絡するのがです」
「そのせいで、こんだけ長引いた」
「おや、それはいいことを聞きました。私もしてやられてばかりではなかったのですね……」
この副社長の奏海を語るあの姿……
思い出したくもないあの光景を思い出させてきた。
「君は先程、私が凛緒を大切だと言った事を咎めて来ましたね?」
「あ? あぁ」
「君の言う通りですよ! 私は凛緒を大切になんて思った事など、ただの一度もない! あんな姪っ子、いや妹……恨んだ事しかないんですよ!」
「……瀧沢さん、お願いします」
「えぇ、連れていけ」
「はいっ!」
今の私の発言を驚かないという事は、そういうことなのでしょう。
私の事、凛緒の事、蔵の事……
財前の事は全て、スノーフレークに知られてしまっていたんだ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




