解放
財前雄治朗視点です。
「凛緒ちゃん、凛緒ちゃんっ!」
「……う、うぅ……お、叔父……様?」
椅子の背に手を回されている状態で縛られている凛緒ちゃんの肩を揺すって起こす。
まだ意識は朦朧としているみたいだが、人物の判断は出来ているみたいだ。
「良かった……すぐにほどくからね」
「う……ここは?」
「廃ビルだよ」
「私は……どうして……あっ、そうだわ! エリンさんと一緒に、歩いていて……急に人のなみが……」
「状況はよく分からないけど、凛緒ちゃんは誘拐されたんだよ」
「私が……誘拐?」
全く現状を理解できていないんだろう。
縛ってあった縄をほどいた事で自由になった手で、頭を押さえて悩んでいる。
「叔父様は、どうしてここに?」
「凛緒ちゃんから連絡があったから電話に出たんだけど、知らない男からだったんだ。それで、"財前凛緒を誘拐した"と言われてね……一千万円を要求されたよ」
「そ、そんなっ! それでお金は?」
「指定された場所に置いてきた。そうしたら、ここの場所を教えられたんだ……それで凛緒ちゃんを発見できた」
「そ、そう……そうだったのね……ごめんなさい……」
「凛緒ちゃんが謝る事じゃないよ」
「で、でも……」
「大丈夫だから」
優しく笑いかけながら、頭を撫でてあげる。
凛緒ちゃんは困ったように視線を泳がせて、瞳に涙を溜めていった。
余程怖かったんだろう。
いつも強がってはいるが、あまり世間を知らないお嬢様だからな。
「あっ、でも、エリンさんは?」
「そのエリンさんっていうのは?」
「私と一緒に捕まった、スノーフレークの方なの。今日は泊まっていたホテルを移動する日だからと、フクが来て……エリンさんに案内をしてもらうようにって……」
「私が来た時は、ここに凛緒ちゃんしかいなかったし、そのエリンさんについては分からないな……けど、スノーフレークがなんとかするんじゃないかな? 奏海さんは自分の会社の社員が誘拐されて、放っておくような方ではないだろう?」
「そ、そうね……」
不安げだった凛緒ちゃんは、今の言葉で少し安心出来たみたいだ。
凛緒ちゃんは奏海さんを本当に信頼している。
だからエリンさんの無事も確信したんだろう。
「社長。車の準備が整いました」
「あぁ、すぐに行く。凛緒ちゃん、歩けるかい?」
「え、えぇ……叔父様、そちらは?」
「あぁ、私の秘書をしてくれているものだよ」
「そう、そうなのね……」
「警察には行かれますか?」
「凛緒ちゃん。どうしようか?」
「え……大事にはして欲しくないけど……」
「そうだよね……」
凛緒ちゃんは本当にずっとスノーフレークに、主に奏海さんに迷惑がかかる事を気にしている。
スノーフレークにボディーガードを頼んでいて、それが失敗しているというこの現状でもまだ、奏海さんへの憧れは消えていないようだ。
「とにかく、この場から離れましょう」
「そうだな。さぁ、凛緒ちゃん。行こうか」
「えぇ……」
凛緒ちゃんの背を支えながら廃ビルを出て、外の車に乗り込もうとしていた時、
「あれれ~? 何処に行っちゃうの~?」
という、聞き覚えのない男の声が聞こえて来た。
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