強硬手段
葵視点です。
昼休みももうすぐ終わってしまうというのに、私は職員室へと呼び出された。
「失礼します」
「あぁ、刀川。君にお客様だよ」
「はい」
校長先生が優しく笑って奥へと案内してくれる。
職員室の奥へ入ったところにはソファとテーブルが置いてあり、たまにくる保護者等のお客さんと先生達が話を出来る空間が用意されている。
本来なら生徒がその空間を使う事はないのだけれど……
「初めまして、刀川葵様ですね?」
そのソファに座っていた2人の男が立ち上がり、1人が声を掛けてきた。
もう1人は挨拶をしてきた男の1歩後ろで、私に頭を下げている。
「えぇ、刀川葵は私ですが?」
「私は財前雄治朗と申します。これは私の秘書です」
「……なるほど。こんな昼休みの終わりにお客様だと、しかも先生方もどこか慌てている様子となれば、誰なのかと思っておりましたが、財前グループの会長様でしたか……」
まぁ、分かってはいたのだけれど。
とりあえず学生の大切な休み時間を奪ったのだという事は、しっかりと理解してもらおうと思う。
「お忙しいところ、大変申し訳ございません。ですが、どうしても聞いていただきたい事があったのです」
「スノーフレークへのご依頼でしたら、スノーフレークへとご連絡下さい。私が社長に近しい社員だからといって、何の融通を利かすことも出来ませんので。では」
私の怒っているという雰囲気をしっかりと感じとってくれた様子で、謝罪をしてきたけれど、だからといって話すつもりはない。
あと3分で昼休みは終わってしまうのだから。
次は移動教室の授業だし、昼休み終了後の5分休憩を足してもあと8分。
「お待ち下さい!」
「はぁ……あのですね、確かに私はスノーフレークで働いてはおりますが、1人の学生でもあるんです。学生の本分は勉強ですし、単位もあります。あなたが例えスノーフレークにとっての大切なお客様であろうと、私は自分の学生生活を邪魔される謂れはありません」
これで今、この人達の相手をしていた事によって、私が次の授業に遅れた場合、それは当然遅刻という事になる。
スノーフレークだろうが、奏海の幼なじみだろうが、特別扱いなんてしてもらいたくはない。
だからこの人達を相手にしている時間は私にはない。
「でしたら、お待ちしておりますので、どうぞ授業を優先して下さい」
「財前グループは随分とお暇なのですね」
「本日は刀川様の都合に合わせられるよう、空けておりましたので」
「ふふっ、都合に合わせられるですって?」
「はい?」
「私は本日とても忙しいのですよ? 学校が終わってからは急いで空港へ行き、少し海外へ行ったあと、朝方に帰ってきてまた明日の授業に間に合わせる予定なのです。そんな私の都合を全く考えもしないでおいて、合わせられる用にしていたと仰られるのですか? たった"本日"の間だけ空けていた事を?」
まるで今日、学校さえ終われば私に時間があるかのように言ってくられた事にイラっとして、ちょっとキツく言ってしまった。
まぁ、別にいいんだけど。
「……御気分を害してしまったようですね。申し訳ございません」
「では、次の授業がありますので。失礼します」
「ス、スノーフレークのっ! 副社長についてのお話なのです!」
「……副社長?」
「スノーフレークの副社長殿は、桜野会長を裏切っておりますっ!」
「……は?」
私が話を聞きそうにないからと、強硬手段を選んだみたいね。
そう言えば私が興味を持つと……
それもこんな、スノーフレークと関わりのない人も沢山聞いている職員室で……
効率的で悪くはないわ。
「……急に、何を?」
「その事について、お話したいのです」
「……でしたら、スノーフレークの受け付けの方にそうお伝え下さい」
「受け付け主任殿は、副社長殿の内通者です」
「何を仰るかと思えば……そうやって動揺を誘って、スノーフレークを壊そうとでも?」
「私はスノーフレークの内部を混乱させたい訳ではありません。ただ、大切な姪を守りたいだけです」
無駄だけど、必要な会話……
本当に面倒だ。
キーン コーン カーン コーン
丁度昼休みの終わりを知らせる鐘がなった。
移動教室しないと……
「あなたの話には、少しだけ興味があります。明日の夜20時、お話しましょうか。場所は、□□通りの彩月亭で。他の時間、他の場所は認めません」
「分かりました。ありがとうございます」
こちらが指定した時間と場所を否定しないなんて、本当に財前グループは暇なんだろうか?
まぁ、どうでもいいや。
遅刻しないように次の授業へいかないと。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




