告白
葵視点です。
「葵~、お客さんだよー!」
「今行くわ」
「お、またか」
「今週だけでも何人目だぁ?」
昼休み、昼食を終えて教室の奥にいた私は、渚に呼ばれて廊下へ出た。
道中空音達に若干からかわれたけれど、それは無視。
「あ、あの……刀川先輩……」
出た先で男の子が1人、少し震えながら声をかけてきた。
先輩って呼んでるし、ネクタイの色からしても1年生だ。
「私に何の用?」
「えっと……その……あの……」
「私も暇ではないのだけれど?」
「それはもちろん! もちろん、存じ上げております!」
「あらそう、で?」
「……す、す、すす、すっ、好きです!」
「ありがとう」
自意識過剰と言われるかもしれないけど、まぁ告白だろうとは思っていた。
本当に毎日みたいに誰かしらくるから。
「僕と、お付き合いしていただけませんか?」
「残念だけど、無理ね」
「何故、でしょうか?」
「忙しいから」
「僕、放ったらかしにされても、全然大丈夫です! 刀川先輩のご都合の良い時にさえ連絡していただければ……」
「そういう関係を築きたいとは思わないわ」
「そ、それならせめて、これを……」
とても綺麗に梱包された、小さな箱。
きっと私を思い、私のために買ってくれたものなんだろう。
でも……
「悪いけど、受けとれないわ」
「どうしてですか!」
「贈り物も受け取らない主義なの」
「そ、そんなぁ……」
落ち込む男の子を見て、少し罪悪感を抱く。
でもこれは仕方のないことだ。
敵か味方かも分からない、赤の他人から物をもらうなんていう危ない事をするほど、私の危機管理意識は低くない。
「もう用は済んだわよね? 自分のクラスに戻りなさい」
「……はい」
肩を落とした男の子は、とぼとぼと歩いていく。
私にとっては他の人と同じような見慣れた光景だけれど、あの子にとったら、とても勇気をもって来たことになる。
だからせめて、見えなくなるまでは見送ろう。
見飽きた光景だとして目を反らすのは、あの子の誠意に応えない対応となってしまうから。
「また受け取らなかったの?」
「当然でしょ」
「受け取らないから、勝手に鞄に捩じ込まれたりするんだよ」
「身に覚えのない荷物があれば、本来の持ち主を特定して、捩じ込み直しに行くから問題ないわ」
「ははっ、あったね。そんな事も」
あの赤い羊捕獲作戦以降、私がスノーフレークの社員であるという事が世の中に知られた。
それもただの社員ではなく、社長である奏海にかなり近い社員だという事がバレている。
もちろん敢えてバラした事ではあるんだけど、その関係で連日誰かしらに何かを言われる事になった。
さっきのような後輩からの告白だけならまだ可愛いものだ。
校門の前で話を聞かせてくれと屯しているマスメディア、スノーフレーク及び桜野グループに恨みを持つ人達からの攻撃等、本当に迷惑だった。
先にこうなる事は校長にも話していたとはいえ、やはりかなりの迷惑をかけてしまったと思う。
最近は少し落ち着いてきたので、流石に校門前で私を出待ちしている人はいなくなったけど、まだ校内では有名人なままなんだろう。
だからああいう告白もくる……
先輩、後輩、職員、男性、女性に関係なく、ここ最近だけでも沢山の人に告白をされた。
本当に申し訳ないとは思うけど、正直うんざりだ……
「はぁ……奏海も、こんな気持ちなのかしら?」
「あ? 何が?」
「空音が毎日告白してた頃の話。奏海もうんざりだと思ってたのかってね」
「なっ! バカ! 奏海がそんな事思う訳ねぇだろ! 俺の告白だぞ!」
「沢山の人じゃないんだから、確かに思わないかもしれないけど、毎日は鬱陶しいでしょ?」
「だ、だから、最近はもう、毎日は言ってないだろ……」
「じゃあ最近言ったのいつ?」
「き、昨日……電話で」
「やっぱり言ってるんじゃない。で、反応は?」
「無言で切られた」
「でしょうね。やっぱりうんざりなのかもね」
「まじか……」
空音は頭を手で押さえて、落ち込んでいるような姿勢をしている。
でも、実際にはそこまで落ち込んではいない。
奏海が空音の事を好きなのは間違いないから。
本当に早くくっつけばいいと思うのに、奏海も頑なだから……と、思っていると、
「刀川、すまないが職員室に来てくれないか? 君にお客様がみえているんだ」
と、先生に声をかけられた。
先生のこの雰囲気……そういう事ね。
全く、紅葉も面倒事を押し付けてくれるものだ。
今まで何人にも言ってきた通り、私は暇ではないというのに……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




