メディア出演
凛緒視点です。
今日もスノーフレークから任せてもらえた仕事をこなしてきた。
ホテルの部屋に戻り、私が変装等々をとると、同じようなタイミングでエリンさんといつものエリンさんに戻ってしまう。
友人のエリとは、また明日までお別れだ。
別に普段からあのエリのように気さくに話しかけてくれても構わないのに……と、思っていると、
「やっほ~! りおりお、元気~?」
という、声が聞こえたきた。
気さくに話して欲しいとは思ったけれど、いきなりこれは変わり過ぎなのでは……って、違うわね。
声がエリンさんじゃないし。
となると……
「えっと、乃々香さん、ですか?」
「そーだよー。覚えててくれたんだねー」
「当然です」
この部屋の事を盗聴していると言っていた、奏海さんの親友の乃々香さん。
急に声がしたのは驚いたけど、ずっと私の事を考えて下さってるのね。
でも、いないものだと思っていいと仰られていたのに、こうして声を掛けて来られるという事は、何かあったのかしら?
「どうかされましたか? はっ! まさか、私が今日担当した依頼で、何か不手際が……」
「あ、ううん。そういうのじゃないからー。ちょっとりおりおにお願いしたい事があってねー」
良かった……
私が何かを失敗してしまった訳ではなくて。
というか、私はもう乃々香さんの中では"りおりお"として確定しているみたいだ。
嫌ではないけれど、変な感じ……
「お願い……なんでしょうか?」
「今日も多分、叔父さんから電話、かかって来るでしょ?」
「はい、来ると思いますが……」
叔父様はいつも、朝と夜に電話を掛けてきてくれる。
朝かかってこない時もあったけど、夜は毎日必ずかかってきていたし、お昼にかかって来ることはなかった。
叔父様も忙しい中で、どうにかと時間を見つけて掛けてくれているんだろう。
私はこんなに良くしてもらっているというのに、心配までしてもらって、本当申し訳なく思う……
「その電話の時にさー、スノーフレークの"副社長と社長秘書は仲が悪い"って、伝えてくれる?」
「え……」
「因みだけど、りおりおはスノーフレークの社長秘書が誰だかは知ってる?」
「いえ、存じ上げておりませんが……」
「じゃあ、知ってた事にしておいてね。社長秘書は、"刀川葵"って名前だから!」
「刀川葵さん……って、確か赤い羊の事件の時の……」
「そうそう、知ってるじゃん!」
赤い羊が捕まった事件の時に、社長である奏海さんと、刀川葵さんというスノーフレークの社員さんがテレビに写っていた。
それまで一切メディア出演をされなかったのに、初めてお顔が公開された事で、あの頃はかなりの騒ぎになったものだ。
あの時の社員さんは、社長秘書さんだっのか……
でも、どうしてそれを叔父様に伝えないといけないのかしら?
それも、社長秘書さんとフクの仲が悪いだなんて……
「あの、本当に仲が悪いのですか? それとも……」
「本当悪いよー」
「そうなのですね」
私に今以上に嘘を言えと言っている訳ではないみいだ。
確かに最初にフクも社長秘書さんに嫌われてて、よく怒られると言っていた。
でも、何故そんな事を叔父様に伝える必要があるのか?
わざわざ乃々香さんがお願いしてくるんだし、きっと何か意味がある、大切な事なんだろうけど?
「分かりました。伝えておきますね」
「うん! よろしくねー」
乃々香さんの声が聞こえなくなってからほどなくして、
♪♪♪♪♪
と、携帯が鳴った。
叔父様からだ。
「ふぅ……はい、叔父様?」
深呼吸をして、自分を落ち着かせてから電話にでると、
「凛緒ちゃん……ごめんね。今日奏海さんに伝えようとスノーフレークに電話をかけてみたんだ。でも、ダメだった……」
と、とても申し訳なさそうにいわれた。
「ダメだったって?」
「受付の主任だという女も、あの副社長側の人間だった……」
「え?」
「奏海さんに直接話したい事があるといったら、100万円を出すようにと言われたよ……おそらく、副社長だというあの男と組んでいるんだろう。スノーフレークの受付がこれでは、どうやっても奏海さんに伝える方法がないんだっ!」
叔父様は少し取り乱しているみたいだ。
……そうか、だからさっき乃々香さんは……
「叔父様っ! 今日、たまたま聞こえてきて事なのだけれど、副社長と社長秘書は仲が悪いそうよ!」
「え?」
「副社長と仲が悪いのならきっと、秘書さんはあの男と組んでいたりはしないはずだわ! 何より、社長である奏海さんの秘書なんだから!」
「そ、それはそうだろうけど、その秘書さんって……」
「刀川葵さん。ほら、前に赤い羊の事件で……」
「あぁ! その人なら、スノーフレークを介さずにこちらから接触出来るかもしれないんだね!」
「えぇ!」
こういう事だったのね。
フクが奏海さんを裏切っているという状態を維持したままで、叔父様と奏海さんを違和感なく会えるようにするために、四之宮主任も敢えてこうしたんでしょう。
少し緊張していたけど、無事に乃々香さんからのお願いを遂行する事が出来てよかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




