応対
凛緒視点です。
「あら、おかえりなさい。お疲れ様でした」
その声に振り返ると、とても優しく笑っている四之宮主任がいた。
どこからどう見ても優しい方なのに……
「中で少しお話しましょうか」
「はい……」
会議室のような部屋へと入る。
さっきのエリンさんの話を聞いた後だからか、余計に緊張してしまう。
なにせ、3件のうち1件しか成功していないんだから……
「改めて、お疲れ様でした。体験した感想としては、いかがでしたか?」
「あ、あの……申し訳ございませんでしたっ!」
「え?」
「失敗続きで……」
「そのようですね」
笑ってる笑顔が恐ろしい……
内心は凄く怒っているんじゃないかしら?
「まぁ、初めての経験でしたからね。仕方ありませんよ」
「は、はぁ……」
「ですが、指輪探しに関してはお手柄だったようで」
「たまたまです……あれは、運がよかっただけですから……」
本当にただ運がよかっただけ……
あそこでお爺さんがこけなかったら、指輪を持っているかどうかなんて、分からなかったし……
「最初にお伝えしたと思いますが、本日のご依頼の皆様はお得意様方です。ですので、依頼達成ができるかはもちろんですが、それと同時に、スノーフレークの社員としての態度というものを、今までの他の方と比べていただくよう、こちらからお願いしておりました」
「そうなのですか!?」
「1件目、2件目共に、あまりスノーフレークには相応しくないという評価を受けていたんです」
でしょうね……
依頼は達成出来なかった上にあんな応対では、とてもこれからスノーフレークでやっていけるとは思えない。
「ですが、3件目は良かったですね。何やら仲直りも出来たそうで」
「それならよかったです」
四之宮主任は本当に嬉しそうに笑ってくれている。
あの奥さんとお爺さんは、そんなにいい報告をしてくれたのか……
コンコンッ!
「はーい」
「お邪魔しますね」
あのお2人に感謝をしていると、ドアがノックされて、1人の女性が入ってきた……って、え?
こ、このお方は……!
「お話中、ごめんなさいね。紅葉、急ぎでこの案件見ておいて」
「あ、分かった。財前さん、ちょっと席を外しますね」
パタパタパタッ!
四之宮主任が小走りで部屋から出て行ってしまった。
そして、まだ部屋に残っている女性……というか、奏海さん……
「あ、あのっ!」
「はい?」
「お忙しいのは百も承知なのですが、握手をしてはいただけませんでしょうか?」
「え、あぁ……はい。構いませんよ」
奏海さんが、あの奏海さんが、私に手を差し出して下さった!
その手を両手で握らせてもらう……
「本当に、ありがとうございますっ!」
「いえいえ、財前凛緒さんですね。頑張って下さい。期待していますよ」
「は、はい!」
「では」
優しく微笑んで、部屋から出ていかれた。
私、今……一生分の運を使ってしまったのかも……
運で仕事を達成出来たくらいなのだから、運を使ってしまっては、もう絶対に何も達成出来ないんじゃ……
いやいや、そんな事を言っていてはダメね。
奏海さんに"期待している"といっていただけたんだもの!
「……え、は? なに……今の……?」
私が気合いを入れ直していると、後ろでエリンさんが混乱していた。
「エリンさん? どうしたの?」
「あれが、奏海様? ないない……あり得ない……」
「エリンさーん? 聞こえてますかー?」
「あの方が笑うとか……」
「あのー?」
「あ、申し訳ございません。少し、あり得ないものを見てしまったので、動揺してしまって……失礼致しました」
一応気付いてくれたけど、エリンさんのこの驚きよう……
普段の奏海さんってどんな人なのかしら?
それに、普段が違うのなら、どうして今は私にあんな応対をして下さったのかしら?
本当にスノーフレークって、謎の多い会社ね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




