切り替え
凛緒視点です。
「工具箱に入っていたのを見つけて、すぐに持ってきて下さったんですよね? それなのに、奥様と言い争いになってしまったから、言い出せなかったんですよね?」
「あ、あぁ……」
「奥様? お爺様はこうして届けてくれようとしていたのですよ? 間違ってもあなたを追い出そうとしているなんて事はありません」
「……」
「本当にどうでもよかったのなら、見つけても持ってきたりはしませんよね? 奥様や私達が工具箱を調べる事はなかったでしょうし、持ち歩かない方が、絶対に見つからない場所だったんですから」
「そ、そうですね……」
きっと素直になれていないだけで、このお爺さんは奥様の事をちゃんと認めているんだろう。
お祖父様もよく、"歳をとると変なところで意地を張ってしまう"なんて仰っていたし……
「最初からお爺様が自分をよく思っていないと決めつけてしまうのはいけませんよ? 今一度、お2人で話し合いをされてみてはいかがですか?」
「そうします……お義父様、先程は大変失礼致しました。指輪を持ってきて下さり、ありがとうございます……」
「い、いや……別に……そ、そもそもお前が落とさなければ……」
「お爺さん、お爺さん! たまには素直になりましょう?」
「うぐっ……だが、こいつがなくしものをするのはしょっちゅうで……毎度毎度、疲れるんだぞ?」
「ふふっ」
「おい、お前! 何がおかしい」
素直じゃないお爺さんに思わず笑ってしまうと、睨まれてしまった。
でも、可愛くみえてしまうわ。
「お爺様? どうして奥様がなくしものをされると疲れるのですか?」
「あ?」
「本当は、いつも一緒に探しておられたんですよね?」
「そんな事は……」
「たまには素直になりましょう? 1日くらいそういう日があっても、いいではありませんか」
「……なんか、お前達と話していると疲れる……」
「そうですか? では邪魔者はそろそろ退散致しますね。エリ、行きましょう」
「うん!」
玄関の方へと行く私達を、見送りにきてくれた奥様。
「あの、本当にありがとうございました。またお礼はスノーフレークの方に送っておきますね」
「はい。無事に指輪が見つかってよかったです」
「お義父様との問題も、少しは解決できそうですし、お2人のお陰です」
「いえいえ」
「でも奥さん? 本当になくしすぎですよ? 気をつけて下さい?」
「それは分かってるんですが、この家、広すぎるんですもの……」
「おいっ! なんだそのいい方は! 御先祖様から代々継がれているこの家に対して失礼だろうがっ!」
「はいはい、それはもう聞き飽きましたって」
また喧嘩が始まってしまったみたい……
でも2人共少したのしそうで、最初に喧嘩をしていた時とは様子が違うのも分かる。
「喧嘩もほどほどにして下さいね! では!」
「ありがとうございました」
「……ありがとうな」
なんとか依頼を達成することが出来てよかった……と、安堵してスノーフレークの本社の方へと戻る。
「凛緒ちゃん、凄かったね! まさか工具箱に入ってるのに気付くなんて……」
「エリがあられをふんでくれた事と、指輪に手をついてくれたお蔭よ」
「痛みしか伴ってない……」
「大丈夫だった?」
「こういうの、地味に痛い奴なんだよね……でも大丈夫!」
「それはよかったわ」
やっと依頼を成功させられたという喜びを感じながら、まるで本当の友人かのようにエリンさんと話しながら歩いて行く。
でも、1件成功したからといって、2件も失敗しているんだ……
そう喜んでばかりはいられない……
スノーフレーク本社に帰ってきて、周りにスノーフレークの関係者しかいない通路に入ったところで、
「本当によかっです。3件目まで失敗していたら、凛緒様のスノーフレーク入社の夢は経断たれていたでしょうから」
と、エリンさんが言った……
さっきまで本当に楽しそうにはしゃぐ友人のようだったのに、切り替えが恐ろしい……
「あの、それはどういう……?」
「紅葉様はそう優しくはないという事です」
「そうなのね……」
それは本当に危なかった……
一気に達成した喜びも一気に冷めてしまうほどに恐ろしい事実だ……と、思っていると、
「あら、おかえりなさい。お疲れ様でした」
と、渦中の四之宮主任が後ろから話しかけてきた……
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