誤解
凛緒視点です。
転びそうになったお爺さんをエリンさんが助けに入ったけれど、倒れること自体は防げなかった。
エリンさんを少し下敷きにするような形で、お爺さんは尻餅をついている。
「だ、大丈夫……ですか?」
「あ、あぁ、ありがとう……君こそ大丈夫か?」
「はい……」
2人とも大きな怪我はないようで、エリンさんは起き上がろうと地面に手をついた。
「痛っ!」
「エリンさん?」
エリンさんが手をついた先は、丁度お爺さんの着ている着物の袂の部分で、そこに入っていた何かに手をついてしまったエリンさんは、また悲鳴をあげた……
お爺さんの袂……
丁度指輪くらいのサイズの小さい何かが入ってるみたいだ……
「あの……それ……」
「こ、これはっ……その……」
「出してもらえますか?」
「……」
少し険しい顔をしながらも、お爺さんは起き上がって袂へと手を入れてくれた。
そして指輪をてのひらに乗せて見せてくれた。
「あっ! 私の……」
「……」
「どうしてお義父様が持って……まさかっ! 見つけてから隠していたんですか!?」
「……」
「私をこの家から追い出したいからって、私とあの人が喧嘩するように仕向けたんですね!」
「……」
怒鳴るように怒る奥さんに対して、お爺さんは何も喋らない……
「ここまで最低だとは思っていませんでした!」
「……そもそも、落とす方が悪いだろ。大切なものなら落とすまい」
「なんですって!」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。見つけて届けに来て下さったんですよね?」
「……」
「お義父様はそんな方ではありません。私の探し物を先に見つけたとしても、その場に放っておくのがいつもですから。見つけて持って来るだなんて……あり得ません」
喧嘩しかけたところをエリンさんが仲裁しているけど、奥さんの怒りはおさまらないみたいだ。
「そんな事ないですって。見つけて下さったんですよね? 凄いですよ! どこで見つけられたんですか?」
「……」
「あ、あの……?」
「ほら、どこで見つけたのかも言えないって言うのが、最初から隠してた証拠ですよ。人が探してるって知ってて、隠し続けていたなんて……」
「……」
奥さんは隠していたと決めつけてしまっている。
それに対して黙りを続けるお爺さん。
どうしてお爺さんは何も言わないんだろう……
こんな変な疑いをかけられたままなんて嫌だろうに……
まさか本当に隠してたなんて事はないだろうし……?
「ふんっ! 勝手に言ってろ!」
「あ、待って下さい。違うんですよね? ちゃんと言わないと……」
「……」
エリンさんが引き留めたのに対して、渋い顔をしている。
この雰囲気からして、隠していた訳じゃないとわかるけど、どうして……?
どこで見つけたのかが言えない場所なのか?
そんなところ…………あ。
「あの、工具箱ではありませんか?」
「え?」
「工具箱に指輪が入っていたのではありませんか?」
「な、何故それを……」
この反応、やっぱりそうだ。
「昨日、縁側の方で何か作ってらしたんですもんね? ワッシャーをしまった時に、落ちていた指輪も一緒にしまってしまったのでは?」
「そ、そうだ……さっき工具箱をみたら入ってて」
やっぱりそうだったんだ……
さっき奥さんは、昨日ここでお義父様が何かを作っていたと言っていた。
それにあられのカスも落ちていたし、ワッシャーも落ちていた。
辺りも気にせず道具を雑に出して作業をしていたのなら、誤ってしまってもおかしくない。
隠していた訳じゃないのに見つからなかったんだから、よほど見つからないようなところにあった事を考えると、工具箱が一番だ。
誤解がちゃんと解けそうでよかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




