工具
凛緒視点です。
3人で庭を探し続けたけど、結局指輪は見つからなかった。
日も暮れて来たので、庭を探すのは諦めて部屋の方へと移動しようとしていた時、縁側の隙間に何かが挟まっているのが見えた。
夕日を反射したように光っているし、金属なのは間違いなさそうだけれど……
「ねぇ? これは何かしら? 何か挟まっているみたいなのだけれど?」
「ん? 本当だね。隙間にピッタリはまっちゃってるけど、とれますか?」
「何か細いところに入れれる道具を探して来ますね!」
依頼人の奥様が部屋の奥へと、走っていった。
「これだったらいいんだけど……」
「そうだね……」
エリンさんと話をしていると、
「なんだ、お前達は!」
と、男の人の声が聞こえてきた。
振り返ると着物姿のお爺さんが1人……
片手にあられの袋を持って立っていた。
きっとあの奥様が言っていた、お義父様だろう。
「私達はスノーフレークのものです。探し物の依頼でお邪魔させて頂いています」
「すのー? あぁ、またか……本当に何でもすぐに失くす奴だ……」
お爺さんは奥様に対して怒っているようで、私達の事も睨んできている。
あまり仲が良くはないのかもしれない。
お爺さんがよくいる寅の間には絶対に行っていないとか言ってたし……
「これだけ広いお屋敷ですし……よく失くしものをされるというのも、仕方のない事なのでは?」
「なんだ? この家に対しての不満か?」
「そういう訳では……」
奥様の呼んだ私達の事も、あまり快くは思っていないんだろう。
「お待たせ致しました! これなんてどうでしょうか? あ、お義父様……」
奥様が細い棒を持ってきてくれた。
これなら確かに隙間からとれそうだ。
「何をしているんだ」
「ここの隙間に何かが入っているようで……」
「取れるといいんですけど……」
「……」
細い棒を隙間に入れて取ろうとする私達を、じっと見つめているお爺さん。
協力してくれるつもりはないようで、ただ仁王立ちで見つめているだけだ。
「あの、ここに居られても邪魔ですし、お部屋に帰って頂けませんか?」
「……何?」
「あとでお部屋にお食事もお持ち致しますから」
「……ふんっ!」
奥様の言葉にイラついたようにお爺さんが部屋の方へと戻って行こうとしたところで、
「取れたーっ!」
と、エリンさんが声を上げた。
「あ、でも残念ながら……」
「違ったわね……」
出てきたのは金属制の丸い部品のようなもので、遠目で見たら指輪に見える感じのものだった。
「何の部品でしょうか? こんなところに挟まっているだなんて……」
「縁側にもともとついていたものではないでしょうし……」
私達が悩んでいると、
「ん? おお、それはわしのワッシャーだ!」
と、お爺さんが声を上げた。
「ワッシャー?」
「知らんのか。ボルトの間に入れるものだ」
「ボルト?」
「それも知らんのか……」
「何でもいいですけど、紛らわしいものを落とさないで頂けますか? 全く……とんだ時間の無駄でしたよ」
「なっ! そもそもお前が……」
「はいはい、お菓子も食べ歩かないでって、何度言ったら分かるんですか! 先程もお客様にご迷惑をお掛けしたのですよ!」
「お前が指輪なんぞを落としさえしんければ、お客様を呼ぶこともなかっただろうに……」
お爺さんは怒りながら部屋から出て行こうとされたけど……
「あ、あの? どうして私達が探していたのが指輪だとご存知なのですか?」
「は?」
お爺さんの発言が気になって、呼び止めてしまった。
「私達は、あなた様が来られてからは一度も指輪という単語を発してはいません。それなのに、どうして指輪を探していると思われたのですか?」
「ワ、ワッシャーと似てるものを探していたんだろ?」
「だからといって、指輪だと断言することは難しいと思うのですが? 奥様はよく失くしものをされるんですよね? それなら他のものだと思ってもおかしくはないのに……」
「お、お前達が指輪と言っていたのが聞こえてきて……」
「それはいつの事ですか?」
「お前達がこの家に来たとき……」
「それならば、私達がどこの誰で何をしに来ているのかもご存知だったはずです。最初に私達を見て驚かれていた事と辻褄が合いません」
「し、知らん! わしは何も知らん!」
私が追い詰めてしまったようで、お爺さんは部屋から出て行こうとされた。
でも、
「おわっ!」
と、転びそうになり、
「大丈夫ですか!」
と、すぐにエリンさんが助けに入った。
エリンさんが支えた事で強く打ってはいないだろうけど、尻餅をついてしまっている。
そして、起き上がろうと手をついたエリンさんは、
「痛っ!」
と、また悲鳴を上げた。
エリンさんが手をついたお爺さんの着物の袂……
そこには小さい何かの膨らみがあった……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




