ファンサービス
副社長視点です。
「失礼します。これ、お願いしますね」
「おう」
「あとこっちも」
「おー」
「それからここに、これとあれと……」
「多くね?」
「昨日副社長がいなかったのが、ここに響いてるんですよ」
「ったく……」
スノーフレークでいつも通りに仕事をしていると、今日はいつも以上に紅葉が仕事を持ってきた。
いなかったからって言われても、昨日だって俺は仕事をしていたんだが……
「そういえば、財前家の方は放っておいていいんですか?」
「あぁ、ほかっとけ」
「ずっと外に副社長を出待ちしてるファンの方がみえるんですけど?」
「俺は塩対応で有名だからな、ファンサービスなんてしないんだ」
「そうですか」
見張りだなんてご苦労な事だ。
俺はこのスノーフレーク本社から出ない生活をしているんだから、どれだけ待ったところで俺と会えるなんて事はないのにな。
可哀想にすら思える。
「それより、凛緒はどうだ?」
「どう、とは?」
「働きぶりだよ」
「んー、正直やる気だけって感じですね。今、2件お願いしていたんですが、どちらも手応えなしです」
「3件目は?」
「指輪探しですね。どう思います?」
「まぁ、見るけるだろうな」
「なるほど?」
手応えなしの奴に何度もチャンスを与えるほど、紅葉は優しくはない。
こいつは切り捨てると判断したら、情け容赦のない奴だからな。
つまり、この探し物を見つけられなけば、凛緒のスノーフレークで働きたいという道は絶たれる事になる。
「お前は?」
「ちょっと厳しいと思いますが、おそらく見つけていただけると思ってますよ」
「そうか……根拠は?」
「んー、直感としか言えませんね。あの方、おそらくですが……」
ガチャ!
「あら、紅葉」
「奏海! おかえりー」
「お前、帰ってきたならこれやれよ」
「何で私が?」
「もとはお前の仕事だろ!」
紅葉と話していると、奏海が帰ってきた。
今日は別件の仕事があったはずだが、早めに終わったみたいだな。
「葵は? 一緒じゃなかったの?」
「休暇にしといた」
「ふーん。最近皆に休みとらせるの、好きみたいだね」
「紅葉も休みたいの?」
「私は結構休んでるから」
「それ、皆言うんだけど……?」
だろうな……
誰もろくに休んじゃいねぇが、こいつ等はそういう奴等だからな。
「私より副社長を休みにしてあげたら?」
「紅葉?」
「馬鹿言うな」
「ごめん、ごめん。冗談だって」
「まぁいいわ。それより、外のあれは何?」
「あー、ほらあの財前のだよ」
「いつまで放っておくつもり? 目障りなんだけど」
「あっちが動くまではほっとくぞ」
「やめてよ」
なんだかんだ言いつつも、奏海は自分の机に着いて書類を見始めた。
お蔭で俺の仕事量も減っていく。
もともとが奏海の仕事なんだから、ありがたいとも思わんが。
「そういえば奏海。凛緒はお前のファンらしいぞ」
「ふーん」
「もうちょっと反応してあげなよ」
「ファンサービスの仕方が分からないから。それは私に出来ない事ね。私に出来ない事は、あなた達がやってくれるでしょ?」
「そうだね。でも、覚える努力はしてほしいな」
「そこにメリットは?」
「多分だけど、優秀な人材が増える」
「……なら、一応考えておく」
今の紅葉の発言……やっぱりな。
凛緒の事、紅葉も気付いているんだろう。
ガチャ!
「奏海ちゃーん!」
「乃々香!」
3人で静かに落ち着いていたというのに、急に1人のガキが部屋に入ってきた。
こいつは外の奴等の見張りをしていたはずなんだが……
久しぶりに奏海を見た事で、嬉しくなって仕事放棄してきたな……
「乃々香、仕事は?」
「えへへ~」
「乃々香、仕事」
「わー、聞こえなーい」
「はぁ、じゃあ仕方ないから私が乃々香の代わりにいってくる」
「えー」
「嫌なら仕事に戻って」
「はーい」
素直に戻って行ったか。
本当に騒々しい奴だ。
「ファンサービスを覚えれば、今のにも対応出来るよ!」
「じゃあ早急に覚える事にする」
「では私が講師を」
「お願いするわ」
下らん茶番劇を繰り広げつつも奏海は仕事を減らしていく。
右手で書類を書きながら、左手はキーボードで文字入力。
そして視線は別の書類で、紅葉と会話までしている……
いつもの事だが、こいつの目はどこをどう見てるんだろうな?
見てると言えば凛緒もか……
今頃凛緒は、指輪を見つけられているだろうか……?
まぁ、問題はないだろうが。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




