20 1-20 油断
赤い羊視点です。
俺は盗っ人君に連絡を送った。
「何、アイツ……あなたの手下?」
「そうですよ。ですが彼は我々の事を知りませんから。ご安心下さい」
約束通り、盗っ人君は聖人ちゃんに絡み始め、モテ男君に投げ飛ばされた。
モテ男君の体育の成績がいいのは知っていたが、これほど強いとは思ってなかったな……
♪♪♪♪♪
隣で携帯がなった。
「空音? どうしたの?」
モテ男君が、あの盗っ人君を仕掛けたのは依頼人だと思ったようで、電話をしてきたみたいだ。
スピーカーにしている訳では無いにもかかわらず、携帯からは怒鳴り声が聞こえ、スコープから見えるモテ男君は、相当興奮しているようだった。
守れたことに安堵するかと思っていたが、ここまで周りが見えなくなるタイプとは……
まぁ、ちらにしろ、モテ男君は予定通りにウロウロしなくなり、聖人ちゃんと被らなくなったので問題ない。
サヨナラ、聖人ちゃん。
心の中でそう呟き、俺は引き金を引いた。
バーンッ!
赤い液体を飛び散らせ、倒れる聖人ちゃんをスコープ越しに確認。
「ねぇ、空音。何の事だかわからないわ」
隣には、双眼鏡で今の光景を見ながら口元を緩ませ、電話をする依頼人。
そして依頼人の携帯からは、先ほどの怒鳴り声よりも大きな悲鳴が聞こえていた。
モテ男君は携帯を落とし、血溜まりの中で聖人ちゃんを抱いて泣き叫んでいる。
依頼人の携帯はまだ通話中のようだが、そこからこちらの声がモテ男君に聞こえる事は無いだろう。
「終わりましたよ」
「えぇ、そうね。ありがとう」
嬉しそうに感謝の言葉を口にする依頼人。
俺は仕事完了の達成感と共に、後片付けを始めようとした、その刹那……
ドガッ!
「がはっ!」
ドサッ……
猛烈な痛みと共に、自分の体が浮いているような感覚に襲われ、気がついた時には壁にぶち当たり、空を仰いでいた。
何が起きたのか分からない……
動かない体で辛うじて確認できるのは、こっちに歩いてくる依頼人だけ……
自分が依頼人に蹴り飛ばされたのだと分かるまで、時間がかかった。
「不意討ちが卑怯なのは分かってるわ。でも、油断大敵って事で……ごめんなさいね?」
追い付かない思考回路。
痛みで動かない体。
何を言うべきなのか、何をするべきなのか、何も分からない……
そんな俺に対し、今この状況の全てが分かっている依頼人は、着々と行動に移っていた。
「どういうことだっ!」
やっと発せた言語はそれだけ……
すでに俺は縛れていた。
もちろん依頼人が縄等を持っていたら俺は気付いていたが、コイツは自分が着ていた上着を使い、俺を縛ったんだ。
流石に上着の素材が、こんなにも伸縮性のいいものだとは思わなかった。
そして警察のサイレンの音も近づいて来ているこの状況。
何もかも理解できなかった。
何故俺が裏切られたのか……いや、そもそも裏切られたのか?
元からこの依頼自体が警察の囮捜査だったのか?
俺は確かに聖人ちゃんを撃ったのに……?
だが、不敵に笑いながらこちらに歩いてくる聖人ちゃんを見た時、やっと全てを理解する事が出来た。
俺は、負けたんだと……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




