失せ物
凛緒視点です。
草むしりと買い物の依頼は失敗してしまった。
その理由は、言い訳にはなってしまうけれど、私が草むしりも買い物もしたことがなかったからだと思う。
初めての事なんて、出来るかどうかも分からないのに、簡単な事だと決めつけて、依頼を軽視してしまった。
それが何よりの失敗だ。
残されたチャンスは、紛失物の捜索依頼……
結婚指輪との事だから、かなり小さくて探すのは困難だろう。
でも、探し物をしたことがないわけではないから、この依頼に関してだけは経験者だとも言える。
私なら絶対に見つけられる! なんていう、依頼を軽視した発言は出来ないけど、誠心誠意探させて行く所存だ!
財前家ほどではないけど、かなり大きな和式の家。
この広さを探すというのは、相当骨の折れる作業だと思う。
ピンポーン!
「はーい」
「スノーフレークから来ました」
「はい、はい。お待ちしてましたよ。よろしくお願いしますね」
家の中に招いてくれたのは、30代くらいの優しそうな女性。
この人が依頼主かしらね?
「こちらへどうぞ」
「「ありがとうございます」」
案内された一室で、エリンさんと2人でお茶をもらう。
これだけ大きな家なのに、お手伝いさんとかはいないみたいだ。
「では早速ですが、状況を詳しく教えていただけますか? まず、指輪がなくなった事に気付かれたのはいつです?」
「昨日です。昨日の夜頃……お風呂に入る時に気付きました」
「いつまではありましたか?」
「それが全く覚えていなくて……確実なのは、その前の日の夜ですね。お風呂に入る時にはいつも気にしますから」
「そうですか……」
丸1日となると、いつ何処で失くしたのかを特定するのは難しいな……
「買い物とか、外へ出掛けられたりは?」
「していません」
「では、家の中をどのように行動したかとか、可能な限りで教えて下さい」
「起きたらまず、顔を洗いに洗面所へ行きます。その後にキッチンで朝食を作り、"子の間"で食べますね」
「子の間、ですか?」
「ここの隣の部屋です。この家は、部屋ごとに十二支の名前がつけられているんですよ」
「なるほど……」
これだけ大きいと、部屋に名前をつけた方がいいのか……
家もそれを見習った方がいいように思う。
いつもどの部屋だなんだと騒いでいるんだから……
「お昼頃に未の間で体操をしましたし、辰の間と巳の間の掃除もしましたね。後は戌の間で書類整理を……」
「絶対に入っていない部屋はありますか?」
「う~ん? 部屋同士も繋がっていますし、通り道として利用しておりますので、絶対に入っていないとは言えません。あ、でも、寅の間はお義父様がよくいらっしゃるので、入っていませんよ」
「分かりました」
大分ややこしい家だ……
部屋だけでも面倒だというのに、庭まであるし……
とはいえ、指輪がそう簡単に落ちる訳はないのだから、通り道として利用しただけの部屋にある可能性は低いわね……
「明後日には主人が出張から帰ってきてしまうんです。ですからそれまでに見つけたくて……」
「尽力致します」
とりあえずは順番に探していった方がいいでしょう。
洗面所やキッチンといった場所のほうが、外してうっかりそのままという可能性があるし……
「私は洗面所の方を探すわ。エリはキッチンをお願いね」
「うん、分かった。じゃあ30分経っても見つけられなかったら、場所を交代しようね」
「えぇ」
一度探した場所でも、違う人が探せば見るところも違うし、案外見つかったりもするものだ。
エリンさんもそれをよく分かっているんだろう。
今までの失敗を取り返すためにも、絶対に指輪を見つけないと!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)