企業理念
凛緒視点です。
草むしりに買い物と、依頼を2つとも失敗してしまった……
全然立ち直れなくて、近くの公園のベンチで座る私に、エリンさんが冷たいお茶を買ってきてくれた。
「お疲れ、凛緒ちゃん……」
「……エリンさん。私、この仕事に向いていないのかしら……?」
「そんなことは……いえ、そうかもしれませんね……」
流石のエリンさんでも、こんな私を励ます言葉はもう思いつかないみたい……と、思っていると、
「でも私も、この仕事には向いていないんですよ?」
と、エリンさんは苦笑を浮かべた。
「向いてないって……でもエリンさんは、スノーフレークで働いているじゃない?」
「えぇ。でも、あのホテルだけです。草は根っこから抜かないといけないなんて知りませんでしたし、野菜を見分けた事もありません」
「そうなのね……」
私にやらせるために、敢えて何も言わずに見守ってくれているのだと思っていたけど、そういう訳ではなかったみたいだ。
エリンさんも本当に何も知らなかったんだ。
昨日言っていた、"このホテル以外の仕事は出来ません"というのは、謙遜でもなんでもなく、ただの事実だったという事ね……
「誰しも、仕事の得意不得意というものはあるものです」
「それは、そうだけど……」
「まだ凛緒様に合った仕事が見つかっていないだけですよ?」
「私に合った仕事なんてあるのかしら……」
自分がどんどん卑屈になっていく……
「凛緒様は、スノーフレークの企業理念というものをご存知ですか?」
「企業理念? いいえ、聞いたことがないわ」
「ふふっ、スノーフレークの企業理念はですね、"出来ない事はやらなくていい"なんですよ?」
「えっ……」
なに、それ……
出来ない事はやらなくていいって、なんでもやると豪語している何でも屋としては、あり得ない企業理念なんじゃないかしら?
「おかしいでしょう? でも本当なんです」
「そんな事を企業理念にしていては、企業として成り立たないわ」
「はい。だから、続きがあります」
「続き?」
「"出来ない事はやらなくていい。だから、自分に出来る事をやれ!"というものです」
「出来る事を……」
草むしりと買い物は、私には出来ない事だった。
何より、やった事がなかったのだから。
やった事もないことを自信過剰にやれると思い込み、その結果として出来なかった……
スノーフレークでいうところの、やらなくてもいい出来ない事に手を出してしまっていたんだ……
「これは、奏海さんが仰った言葉から作られた企業理念だそうです。正確に言うと、奏海さんが仰ったのは、"あなた達に出来ない事は私がやる。だから、私に出来ない事を皆がやって!"ということらしいです」
「言ってる事が無茶苦茶ね……」
出来ない事をやると言っておきながら、自分の出来ない事をやらせようだなんて……
出来ない事がないから、皆の出来ない事をやると言っている訳ではないのでしょうし、皆が自分の不足を補ってくれると信じているからこその発言ね……
本当に凄い人だわ。
奏海さんも、奏海さんにそう言わさせる皆という人達も……
♪♪♪♪♪
携帯がなった。
四之宮主任からだ……
「はい」
「お疲れ様です。報告は受けました」
「本当に、申し訳ございませんでした……」
「いえいえ、初めてですものね。大丈夫ですよ」
そう、初めてなんだ……
初めてやる事に対して、もっと警戒するべきだった……
「これから、どうされますか? まだお仕事のお手伝いをされますか?」
こんな私を、まだ見捨てないで下さるんだ……
「……はい、是非お願いします。でも、今度はもう一度、ちゃんと仕事を選ばせてもらってもいいですか? 自分に出来る仕事をやりたいんです!」
「分かりました! と、言いたいところなのですが、申し訳ございません。凛緒さんにお願い出来る依頼は、1つしか残っておりません」
「そ、そうなんですね……」
「最初にお選びいただけなかった、紛失物捜索の依頼です」
時間がかかりそうだからと、私が省いた……
「どうされますか?」
探しものをしたことがない訳じゃない。
ただ、見つけられないかもしれないという、失敗するリスクの高い依頼だ。
私に、出来るだろうか……?
「……やります! やらせて下さい!」
「はい! では、手続きをしておきますので、張り切ってお願いしますね!」
「ありがとうございます!」
エリンさんも笑ってくれている。
私も、私に合った仕事をみつけないと!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




