草むしり
凛緒視点です。
スノーフレークの本社で草むしりの依頼を受け、依頼人様の家まで来た。
庭付きの2階建ての家だ。
外からでも綺麗に花が咲いているのが分かるし、とても丁寧に整備されているみたいね。
ピンポーン!
「はい?」
「スノーフレークから来ました」
「あぁ、どうぞ」
50代くらいの女の人……
この人が依頼人様で間違いないかしら?
「本日はよろしくお願い致します。凛緒といいます」
「私はエリです」
「はいはい、よろしくお願いしますよ。庭はそこね。雑草は全て抜いて頂戴」
「かしこまりした」
お急ぎなのかなんなのか、少し冷たい気がする。
庭の方を指差しただけで、案内もしてもらえない……
それに、私達が来たことを、あまり快く思っていないような……?
「凛緒ちゃん、やろ?」
「あ、うん……」
庭へ行くと、本当に綺麗に花が咲いていた。
雑草を抜くようにとは言われたけど、雑草もそんなに生えてはいない気がする……
こんなの、10分とかからずに終わってしまうと思うけど、どうしてわざわざスノーフレークに依頼なんて……?
「突っ立ってないで、早く終わらせて頂戴よ」
「あ、あの……どの草を抜けばよろしいのでしょうか?」
「だから、雑草よ」
「雑草と言われましても、あまり雑草が生えていないように見受けられるのですが?」
「はぁ? あなた、この雑草が見えないの? 大体、パッと見ただけで、植木の下も見ていないんでしょう? 苗の近くにある雑草が、一番苗が栄養を吸収するのを阻害するのよ! ちゃんとしゃがんで、花を傷付けないように葉をどかしながらやりなさいよ!」
「は、はい……申し訳ございません……」
怒り口調で話される……
私が財前の娘だと分かると、誰もが畏まって喋ってきた。
だからこんな風に話された事なんて、今までにない。
理不尽に怒られているんだろうけど、少し嬉しいと思ってしまってしまっている私がいるみたいね……
「全く、いつもの子が来てくれると思ってたのに……」
「誠に申し訳ございません。私共、こういった仕事が初めてでして……本日の代金は不要ですので、勉強させて下さい」
「……まぁいいわ。とにかく、雑草を速く抜いておいて! 私は2階にいますからね、終わったら声をかけてよ」
「かしこまりました」
エリンさんが丁寧に謝罪をしてくれた。
でも勝手に代金不要なんて事にしてしまって、よかったのかしら?
「ごめんなさいね、エリンさん」
「大丈夫だよ、凛緒ちゃん。初めてなんだから、色々あるよ!」
「……そうね」
草むしりなんてした事がなかったからといって、お客様からの依頼を蔑ろにしてしまっていたみたいね……
気を付けないと……
怒られて嬉しいとか、そんな事を言っていられる余裕もない……
そもそもそんな気分の時点で、私には緊張感がかけていた。
気持ちをちゃんと切り替えてやらないと……
反省をしつつエリンさんと草むしりを続けていると、
「ちょっと、なんなのよ! その草の取り方は!」
と、依頼人様が怒ってきた。
2階にいるとの事だったのに、わざわざ降りてき来られるだなんて……
相当怒ってるみたいだけど、私は何をやってしまったのかしら?
「あの、取り方といいますと?」
「そんな上の葉だけをとったって、意味がないでしょう! ちゃんと根っこから取りなさいよ!」
「は、はい……」
「何しに来たのよ!」
「本当に申し訳ございません……」
草むしりをしたことがないから、なんていう言い訳は通用しない。
依頼内容が草むしりだと分かっていた上で、草むしりの勉強をせずにきた私が悪いのだから……
「もう帰ってちょうだい! 他の方に依頼するから!」
「いえっ! やらせて下さいっ! お願いします」
「あなただって、やりたくないんでしょう? もういいから」
「やりたくないわけではないのです。初めての事だったので……本当に申し訳ございません……」
「まぁ、一応新人が来るという話しは聞いてたから、ちょっとは多めに見てあげてもいいけど?」
「ありがとうございますっ!」
物凄く怒られる……
でも、非は私にあるから……
最初に雑用だと思った仕事で、こんな事になるなんて……
どんな事でもやってみせると意気込んでいたというのに……
なんとかやらせてもらえる事にはなったけど、私は働くという事を簡単に考えすぎていたみたいね……
草むしりといえど、お客様の期待通りに仕事をこなさないといけない難しさというのは、あるのだから……
反省が絶えないわ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)