訪問依頼
凛緒視点です。
「こちらが本日凛緒さんにお願いしようと思っている仕事です。お好きなものをお選び下さい」
そう言って四之宮主任が見せてくれた紙。
そこには、庭の草むしり、買い物代行、紛失物の捜索という、3つの仕事が書かれていた。
正直に言って、どれも雑用だと思う。
その辺にいる誰かに頼めばいいような事で、このスノーフレークを利用している人が結構いるんだな……
でも少し残念だ……
折角スノーフレークの仕事をさせてもらえると思ったのに、こんなバイトの子にやらせても問題ない仕事ばかりだなんて……
「どうされました?」
「あ、いえ……こういう依頼、多いんですか?」
「そうですね。ありがたい事に我が社を頼って下さるお客様は多いですよ。ですが社員の数も足りておりませんので、お客様にはお待ちいただく事態となってしまっているんです」
「え? バイトの子達にはやらせないんですか?」
スノーフレークにはバイトがたくさんいるはずだ。
誰でも簡単にバイトになれるんだから。
「こういった個人宅への訪問依頼を、バイトの皆さんが担当する事はありません」
「個人宅……」
そうか……
この依頼、どれもお客様本人とお会いしないといけない依頼なんだ。
「バイトの皆さんには公共の公園や道路等の清掃、ペットの捜索といった、誰もが外で出来る仕事をお願いしております」
「お客様に失礼がないようにですか?」
「そうですね、やはり信用第一ですからね。従業員の足りていない店舗の応援や、案内スタッフ等といった、お客様と直接関わる仕事をバイトの皆さんにお願いする事はございますが、そういったものはスノーフレークの加盟店のみですから」
「そうなんですね」
お客様とお会いするというのは、どうしても信用問題に繋がってきてしまう。
だからバイトに任せる事はなく、スノーフレークに認められた社員の人しか出来ないのか……
雑用だなんて思ってしまった自分が恥ずかしい。
私はちゃんとスノーフレークの社員としての仕事を経験させてもらえるんだ。
「この、紛失物の捜索というのは、何を捜索するのでしょうか?」
「結婚指輪です」
「なるほど……では、この捜索依頼ではなく、こちらの草むしりと買い物の代行をやらせて下さい」
「2つですか? 分かりました。ですが、何故紛失依頼を避け、2つ受けられるのですか?」
「指輪となると捜索も困難でしょうし、初めての私には少し荷が重いかと……厳しい事に挑戦したいという思いもあるのですが、それよりは確実に解決出来る2つをこなしたほうが、自分の経験に繋がると思ったまでです」
私がそう言うと、四之宮主任は優しく笑いながら、
「期待していますね」
と、部屋を出ていった。
「エリンさん……私、おかしかったかしら?」
「そんな事はございませんよ」
「でも、苦手なものから逃げた臆病者だと思われても仕方がないわ……」
「紅葉様はそんな事を思われませんよ。寧ろ、積極的に2つも挑戦しようとされる凛緒様に、期待されているんだと思います」
「そうかしら?」
「そうだよ、凛緒ちゃん!」
「あ、ありがと……エリ」
「あら、仲がよろしいんですね」
「あ、これは……」
「いいんですよ。仲良しが一番です」
エリンさんと少し話ながら待っていると、四之宮主任が部屋に戻ってきた。
なんか、ちょっと、恥ずかしい……
「先方様にはご連絡を入れておきました。まずは草むしりの方からお願い致します」
「ここに直接伺えばいいんですね?」
「そうです。常連様ですので、あまり気負わずに向かって下さいね」
常連さんなら、私が体験中だという連絡も行っているんだろう。
やっぱり、これは私のテストでもあるんだ。
「こちらは、本日の経費です。何か必要な道具がありましたら、購入していただいて構いませんし、食事代もここからご利用下さい」
「ありがとうございます」
受け取ったのは10万円……
どう考えても多すぎる金額。
「それとこちらが、スノーフレークとの連絡用の端末になります。経費が足りなければ、こちらにご連絡下さいね」
「足りない事はないかと思いますが?」
「そうですか? ふふっ」
楽しそうな四之宮主任……
これも何かを試されているんだろうか?
「では、お気をつけて、いって来て下さいね」
「はい!」
四之宮主任に見送ってもらいながら、スノーフレークの本社を後にした。
草むしりや買い物の代行なんていう、まるで雑用のような仕事だけど、お客様の信用を失わないように、スノーフレークの恥とならないように、頑張ってみせる!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)