本社
凛緒視点です。
朝早くにエリンさんが服を持ってきてくれた。
今まで全く着る機会のなかった、安物の服らしい。
変装なんだし、私はどこにでもいる普通の女じゃないといけないんだから、こういう服なのは当たり前だ。
それに、着なれない服もそうだけど、慣れないことばかりで結構わくわくしている。
髪はウィッグをかぶり、伊達眼鏡もかけた。
私自身、今の私を私とは思えないし、変装はこれで完璧だろう。
「凛緒様、どうですか?」
「凄く動きやすいわね。いいと思うわ」
「それは良かったです。それから、本日の私の役割と致しましては、凛緒様のご友人という事になります。言動を改めてさせて頂きますので、ご了承下さい」
「もちろんよ」
なんならいつでもそれでいいと言いたくなってしまうけど、エリンさんの立場的にもそういう訳にはいかないから。
仕事でしか友人になれないというのは少し悲しいけど、仕方ない……
「じゃあ行こっか、凛緒ちゃん!」
「え、あ、えぇ……」
急に変わられると驚いてしまう……
エリンさんはニコニコと笑ってくれているけど、昨日の感じからして、この仕事にあまり乗り気ではなかった。
本当に申し訳ないな……
「エリンさん、あの……」
「凛緒ちゃん! エリでいいよ!」
「そ、そうね。エリ、今日はよろしくね」
「うん」
2人でホテルから出る……
閉じ込められていたとは言っても、全くそんな感じはしなかったし、外が懐かしいという程の事もない。
ただいつも警戒ばかりしていたから、こんなに爽やかな気持ちで外に出たのは本当に久しぶりだ。
清々しい風が心地いい。
「そういえば、エリはその格好のままでよかったの? 誰か知り合いにあったりしたら……」
「大丈夫よ。私は普段、あのホテルからは出ないから。外の事は本当に何も知らないの」
「そ、そうだったのね……」
閉じ込められているのはエリンさんの方じゃないか……
どうしてそんな事になっているのかが気にはなるけど、それはきっと私が介入してはいけない事だ。
聞かないでおくべきだろう……
「ここがスノーフレーク本社……」
「エリは初めてきたの?」
「うん……写真とかでなら見たことはあったけど……」
スノーフレークの本社前に着くと、エリンさんはかなり強ばった顔をした。
本社に来ずにずっとあのホテルで働いていたって事みたいだし、私よりもずっと緊張しているんだろう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
入っていきなりに、お姉さんに声をかけられた。
私と同い年、もしくは若いと思われるお姉さん……
スノーフレークで社員として認められている方なんだと考えると、歳が近そうなだけに羨ましく思ってしまう。
「四之宮主任へ取り次いで頂けますか?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
緊張しているみたいだったけど、やっぱり流石はエリンさんだ。
お姉さんとも普通に話している。
私はこれから、スノーフレークの四之宮主任さんに会うのね……
案内された応接室で待機していると、
「お待たせしてごめんなさい。初めまして、四之宮紅葉と申します」
と、女の子が1人入ってきた。
スーツを着ているとはいえ、まだ高校生くらいの若い女の子……
私が最初にスノーフレークに依頼に来た時に受け付けてくれた人よりも若い気がする……
この方が四之宮主任……
「初めまして。財前凛緒と申します。本日はこのような場を設けて頂き、誠にありがとうございます」
「いえいえ。こちらとしましても、仕事をお手伝いしていただけるのは、とてもありがたい事ですから」
「ご期待にそえるよう、尽力致します!」
「ふふっ、そんなに畏まらないで下さいね」
とても優しく笑ってくれている。
確実に歳下だろうけど、間違いなくこの方は奏海さんに近しい人だ。
乃々香さんのような、奏海さんのご友人だろうか?
「エリンさんもお久しぶりですね」
「はい。ご無沙汰しております、紅葉様」
「かたいですよ~」
「申し訳ございません……」
かなり緊張しているエリンさん……
これは、緊張というよりは畏れかしら?
気にしてはいけないと分かってはいるけれど、気になってしまう。
スノーフレークはずっと憧れていた職場だ。
でも、そのスノーフレークの人達というのは、本当に何者なんだろうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)