職場体験
凛緒視点です。
「ねぇ、エリンさん? 私はどれくらいの間、ここに閉じ込められる事になるのかしら?」
トランプゲームにも少し飽きた頃、エリンさんに質問をしてみた。
少し困ったように首を傾げてから、
「副社長次第ですが、少なく見ても1週間は滞在していただく事になると思います」
「1週間……長いわね」
「何かご要望でしたら、直ちにご用意致しますが?」
「うーん……ずっと遊んでるっていうのも好きじゃないのよ」
かといって、今の私に何か出来る事がある訳でもない……
勉強でもしようかしら?
でも……どれだけ本を用意してもらっても、どうせ……
それに、あまりたくさん本を用意してもらうというのも気が引けるわ。
私が読みたい本って、大体分厚いものだから……
「まぁ、そんな事を言い出すんじゃねぇかと思って、ちょっと奏海と話してきてやったぞ」
「フク! お帰りなさい!」
「おう……」
フクが帰って来てくれたのが嬉しくて、思わず子供みたいに出迎えてしまった。
少し恥ずかしい……
「副社長? 奏海様は何と?」
「職場体験も兼ねれるし、丁度いいってよ」
「そうでしたか」
「何の話?」
「お前、暇で退屈してるんだろ? スノーフレークで働いてみねぇかって話だな」
「ええっ!?」
私が、スノーフレークで働ける?
そんなのは、こちらからお願いしたい位なのに!
「いいのかしら?」
「お前が嫌じゃなければな」
「嫌だなんて、とんでもないわ! 是非、是非とも!」
「スノーフレークに就職したいんだもんな。まぁ、本格的に社員って訳にはいかねぇが、ちょっとした仕事をこなしてもらう事になるぞ」
「もちろん! ありがとう、フク!」
「……」
フクは、私がこんなに喜ぶというのが理解できないというような、変なものを見る目で私を見てきているけれど、そんな事は気にしない!
ここまで配慮してくれるだなんて、本当にフクには感謝しかないわ!
でも私って、このホテルから出てもいいのかしら?
「外へは行かせてもらえるの?」
「あぁ、ちょっと変装をしてもらう事にはなるがな」
「変装……」
「嫌か?」
「いいえ! ワクワクするわ!」
「盗聴器を仕掛けてた奴も、お前はここに捕らわれてると思っているだろうし、狙われるのはお前より俺のはずだからな。一応2人で行動してもらう事にはなると思うが、そんなには警戒しなくていいだろう」
「2人って、誰?」
「エリンだな」
フクが当たり前のようにそう言うと、
「え、それは困りますよ、副社長。私はこのホテル以外の仕事は出来ませんから」
と、エリンさんが困ったように言った。
「だからこそだ。こいつの採用試験も兼ねてるんだから、お前はこいつを見ておくだけでいい」
「ですが……」
「お前の仕事は、こいつが財前凛緒だと思われないよう、一緒に行動する事だ。他の仕事はしなくていい」
「……分かりました」
少し不服そうなエリンさん……
「ごめんなさい……私のせいでエリンさんにとっては良くない事になってしまったみたいね……」
「いいえ、凛緒様。凛緒様が気にされる必要はございません。私がホテル以外の仕事でお役に立てない事が、心苦しいというだけですから」
「つまり、凛緒。お前がこれから任される仕事は、お前が1人で解決しないといけないって事だからな? 働きたかった職場で働けるからって、あまりはしゃぐなよ?」
「分かってるわ。採用試験も兼ねているのでしょう?」
「そうだ」
きっとこの結果を奏海さんも見てくれているはず。
絶対に任された仕事をこなして、奏海さんに認めてもらわないと!
「それで、いつからなの?」
「あー、明日からだな。とりあえず明日、エリンが持ってきた服に着替えてから、スノーフレーク本社にエリンと2人で行ってくれ。話は通しておくから」
「ありがとう!」
至れり尽くせりね!
いきなり本社へだなんて緊張するけれど……
「……フクは一緒に来てくれないのね?」
「俺は俺でやることがある」
「その……私の問題は解決しそうなの?」
「あぁ、それならもう解決してる」
「えっ! どういう事!?」
「蔵の開け方もおおよその予想はついてるし、お前に危害を加える奴の目星も魂胆も分かってるって事だ」
「だったら、早く解決してくれればいいじゃない!」
「まだ、確実な証拠がないんだよ。まぁお前は、職場体験でもして、時間を潰してろ」
蔵の開け方が分かっているのなら、開けてくれればいいし、私に盗聴器を仕掛けたりしてきたのはあの女だろうから、魂胆が分かっているのなら、やめさせてくれればいいのに……
でも、フクにもきっと考えがあるのよね……
気にはなるけど、とりあえず……
私はフクを信じて、自分に任された仕事を頑張るとしましょうか!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)