同行者
副社長視点です。
「私も同行させてもらいます」
「七緒さん。いい加減にしてもらえますか?」
「この家で暮らす権限がある以上、この家を調べられるという事に私が同行して、何が悪いと仰るのですか?」
「確かに悪いという事はありません。ですが、必要ないと私は言っているのです。あなたはこのお客様とは無関係なのですから」
「お客様と無関係だとしても、お客様の用事が家の事であるのならば、家の人間も立ち合うべきです」
「あなたは財前家の人間ではないでしょう! 立ち合いは私が行いますので……」
叔父と自称妻がずっと言い合っている。
お互いに主張を曲げる気はないようで、埒が明かない。
もう面倒だし、こいつ等は放っておいて行くか……
「あっ! 勝手に動かれては困ります」
「あんた等の話が長すぎるからだろ。俺だって暇じゃないんだ」
まだ書類仕事も残ってるし、奏海への報告にもいかないといけない。
事実、本当に暇じゃない。
「はぁ、仕方ありませんね。ご案内致します」
自称妻に付いてこられるのは嫌みたいだが、俺に勝手にうろうろされる方が嫌なんだろう。
叔父の方が折れて3人で行く事になった。
「こちらが今回の問題となっている蔵です」
「ほぉ、随分とデカいな……」
「中には貴重な文化遺産がしまわれていると聞きますが、何が入っているのかまでは知らされておりません」
「なるほどな、それで下手に壊せないと……」
「はい」
見たところ普通の蔵だ。
壊せない事もなさそうだし、普通に閂を外せば入れそうだが……?
「この閂を外すとどうなるんだ?」
「どうもなりません。閂を外したところで、扉は開かないのです」
「そりゃ中で何かが引っかかってるだけなんじゃねぇのか?」
「……なんと言いますか、あなたは本当にスノーフレークの方なのですか? 発想がいかにも……」
「悪かったな」
俺だって別に好きでスノーフレークをやってる訳じゃない。
仕方なくやってるんだ。
「この蔵はからくり仕掛けらしいのです。閂はただの見せかけの鍵。実際の開け方は父しか知りませんでした」
「ふーん……」
からくりねぇ……
空音なら開けれんじゃねぇか?
あいつ器用だし。
「そのからくりを解く手順を、凛緒ちゃんが父から聞いていると言われていますが、凛緒ちゃんは聞いていません」
「何で凛緒だけが聞いてるなんて言われて疑われるんだ? あんたは?」
「私が聞いていたら、とっくに開けていますよ! あぁ、それに父は本当に凛緒ちゃんを可愛がっていましたからね。あなたもさっき仰っていましたが、病気だった事を凛緒ちゃんにだけ伝えていた以上、凛緒ちゃんが知っている可能性があると思われたのです」
今の反応……
やっぱりこいつは蔵を開けたいんだろう。
凛緒の話だと、今の財前グループを経営してるのはこの叔父のはずだ。
大方経営が傾いているから、立て直すためにも蔵の中身を利用したいといったところだろう。
そして経営が傾いているのであれば、財前家の親戚達もその事を察しているはずだ。
それなのにこの叔父が何もしないのであれば、それは本当に開け方を知らないからだという証明にもなる。
だから誰も叔父の方は疑わないんだな……
対して凛緒は、財前家から出ていこうとしている。
スノーフレークに入りたいとかまで言っていたし、財前家に縛られる事なく自由に生きているんだろう。
そんな奴が財前家の財産を牛耳れる権利なんてものを持っていれば、それは当然誰もが恐れる事になる。
だから狙われるんだ。
かなり手荒な方法で……
「因みにお前はどうなんだ?」
「何の事でしょうか?」
「じーさんの妻なんだろ? じーさんは凛緒を可愛がっていたらしいが、お前は可愛がられていなかったのか?」
「……失礼な方ね」
ずっと無言でただ同行してきているだけだった自称妻に話しかけてみたら、物凄い形相で睨まれた。
冗談の通じない女だ。
「正宗さんはあまり財産家の話を私にされませんでしたから」
「信頼されてねぇのな」
「……凛緒の話はよく聞かせて下さいました」
「ただの孫自慢だろ?」
「……いつも私の事をとても気遣って下さっていて……」
「あー、はいはい」
適当に相づちを打っておいたら、何も喋らなくなった。
別に喋りたかった訳でもねぇからいいけどな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)