ドキッと
凛緒視点です。
エリンさんが持ってきてくれたトランプで遊んでいると、急に携帯がなった。
叔父様からだ……
フクと会ったのかしら?
「エリンさん、ちょっと失礼するわね」
「はい。副社長は、悪者。副社長は悪者ですよ!」
「分かってるわ」
エリンさんに断りを入れてから電話にでる。
変に心配されないように、大事にならないように、色々と気をつけて話さないと!
「あぁ、凛緒ちゃん? 私だ。少し聞きたい事があるんだが、今は大丈夫かい?」
「お、叔父様? はい……大丈夫です、よ?」
ちょっと辿々しくなってしまった。
意気込み過ぎてしまったみたいね……
「今スノーフレークの方が家にみえているんだ。それで、蔵や凛緒ちゃんの部屋をみたいと言っているんだが……」
「おい、凛緒! 俺が見るのは構わないよな?」
「え、あ……」
……ちょっと待って、今"凛緒"って……
フクが私を凛緒って! 呼び捨てで!
「あの、えっと……」
「早くいいって言え!」
「そんな凛緒ちゃんを脅すような真似は止めて下さい! 凛緒ちゃん、断ってくれていいんだ。凛緒ちゃんの許可さえなければ、この男には何も出来ないんだから。脅迫に屈する事はないよ?」
考える事を間違えてしまっていたみたい……
電話の雰囲気から察するに、フクと叔父様は喧嘩をしているみたいだし、このままだとフクが悪者になってしまいそう……
でも、エリンさんが"副社長、悪者!"と書かれたスケッチブックを見せてくるし……
「ありがとう、叔父様。でもいいの。フク、蔵でも部屋でも、何でも好きに見ていいわよ。壊したりしないのなら、触ったり、動かしたりしてもいいわ」
「凛緒ちゃん……」
「ははっ、決まりだな」
フクがそんな事をする訳がない。
でも、普通に好きなだけ見ていいっていうのは、閉じ込められている身としてはおかしい。
それにあまりおどおどとしてしまっていては、本当にフクが悪者になってしまう。
だから言い方に気をつけて、フクには冷たい口調で言ってみた。
エリンさんが控えめに拍手をしてくれてるし、今の返しで良かったみたいだ。
「凛緒ちゃん、無理をしなくていい! 反対してあとで何をされるか分からないのが怖いというのなら、今からでも警察に……」
「いえ叔父様、本当に大丈夫よ。フクが蔵や私の部屋を調べて何か変わるのなら、私は調べて欲しいと思うわ。確かにあまり信用出来ない人ではあるけど、その人はあの桜野奏海さんが選んだ人なんだもの」
叔父様だって私がどれだけ奏海さんを尊敬しているかは知っている。
だからフクを信用しているという訳ではなく、奏海さんを信用しているという事で、叔父様にも納得していただけるはず。
「ま、そーゆー事だ。さて、部屋を見せてもらうとしようか?」
「……分かりました。凛緒ちゃん、何かあったらすぐに連絡するんだよ? 携帯が奪われるような事があれば……」
「奪わねぇよ。奪うんなら、もっと前に奪ってる」
「大丈夫よ、叔父様。ありがとう」
これ以上は何をどう言えばおかしくないのかも分からないので、こちらから電話を切らせてもらった。
大体私の心臓はまだ少し激しいままなんだから!
全く、急に呼び捨てになんてしないで欲しいものだわ!
慣れていないからドキッとするじゃない!
「凛緒様、素晴らしいです!」
「そうかしら?」
「はい! 今のはいい感じに相手に伝わったと思いますよ!」
エリンさんが凄い褒めてくれる。
スノーフレークの人に褒められるというのは素直に嬉しい。
でも、折角演技が上手くいっても、相手が叔父様では……ちゃんと私に盗聴器を仕込んだ人に伝わって欲しいのに。
「折角上手くいっていたのなら、叔父様じゃない相手に伝えたかったわ」
「伝わっていると思いますよ? 電話の向こう側が叔父様だけとは限りませんから。ですよね、乃々香さん?」
エリンさんがそういうと、
「そーそー、副社長からの報告だとー、別室で2名は聞き耳を立ててるみたいだからねー」
という声が急に聞こえてきた。
「えっと……どこから?」
「お部屋のスピーカーからだよー」
「どちら様?」
「乃々香だよー」
「乃々香さん……」
とても元気で明るい声……
「凛緒様、乃々香さんは奏海様の幼なじみで大親友の方ですよ」
「そ、そんな方が……」
「よろしくねー」
「よろしくお願い致します……」
「私はずっと凛緒の部屋を盗聴してるからねー」
「そうなのですか?」
「そうなのですー。嫌だったら言ってねー。改善方法を考えてみたりするから」
「ありがとうございます」
少し子供っぽく話して下さっているのは、私の緊張を和らげるためだろう。
声だけではあるけど、とても優しい方なのは分かる。
「ボディーガードをお願いした以上、私の日常に踏みいられるのは仕方のない事ですから。大丈夫です」
「そっかー、よかったー。じゃあね~」
「乃々香さんは変わった方ですから、いないと思っていただいて構いませんよ」
「そうなんですね」
奏海さんの大親友の方なら、是非とも親しくなりたいけど、そういう訳にもいかないか……
急に憧れの人の大親友と話してしまうなんて……
さっきから心臓が落ち着きそうにないわ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




