いい演技
副社長視点です。
「話を戻しましょうか。凛緒ちゃんは蔵の開け方を本当に知りませんよ」
「あんたにも黙ってるだけかもしれねぇぞ」
「あなたも先程仰ったように、凛緒ちゃんは蔵が壊れてもいいと思っています。ですから、本当に知っているのであれば、こんな事が起こる前に開けているんですよ!」
親戚のババアを下がらせてから、叔父様とやらがかなりデカい声で熱弁し始めた。
おそらく下がった振りをして、聞き耳を立てているババアと七緒にもこの会話を聞かせようとしているんだろう。
「知ってはいるが、それが蔵の開け方だと理解していない可能性もある。じーさんとの思い出話の中に、蔵を開けるヒントだってあるかもな」
「そ、それは……」
「ほらな、凛緒が開け方を知っている可能性はあるんだ」
言い返せないみたいだな。
「という訳で、蔵と凛緒の部屋を見せてもらうぞ」
「それは出来ません」
「何故だ?」
「あなたのような部外者に、我々財前家のものを触らせると思っているのですか?」
「触らねぇよ、見るだけだ」
「同じです!」
まぁ正直興味はないんだが、ここで見ておかないとおかしいからな。
俺も見ずに帰る訳にはいかない。
「なら凛緒に連絡させてもらう。それで凛緒が見ることを許可したなら、俺に見る権利はあるだろ?」
「凛緒ちゃんがそんな許可を出す訳がない!」
「そう思うなら、お前が電話をかけてみろよ」
「……いいでしょう」
叔父様は凛緒に電話をかけ、スピーカーにした状態で机の上に置いた。
俺にも、同時に会話を出来るようにしたんだろう。
効率を考えて動く……俺の苦手なタイプの人間だな。
♪♪♪♪♪
「あぁ、凛緒ちゃん? 私だ。少し聞きたい事があるんだが、今は大丈夫かい?」
「お、叔父様? はい……大丈夫です、よ?」
「今スノーフレークの方が家にみえているんだ。それで、蔵や凛緒ちゃんの部屋をみたいと言っているんだが……」
「おい、凛緒! 俺が見るのは構わないよな?」
「え、あ……」
凛緒はかなり戸惑っているみたいだ。
叔父様からまた電話が来るなんて思ってもみなかっただろうし、捕まって困っている演技をまたしないといけないんだからな。
その上、今回は俺までいる。
どう合わせればいいのか、悩ましい所だろう。
「あの、えっと……」
「早くいいって言え!」
「そんな凛緒ちゃんを脅すような真似は止めて下さい! 凛緒ちゃん、断ってくれていいんだ。凛緒ちゃんの許可さえなければ、この男には何も出来ないんだから。脅迫に屈する事はないよ?」
「ありがとう、叔父様。でもいいの。フク、蔵でも部屋でも、何でも好きに見ていいわよ。壊したりしないのなら、触ったり、動かしたりしてもいいわ」
「凛緒ちゃん……」
「ははっ、決まりだな」
今のはなかなか良かったな。
俺に怯えているわけでもなしに、俺の言う通りにした。
これは凛緒が本当に蔵をどうでもいいと思っている証明にもなるし、俺と普通に会話をしているという事を見せつける事も出来た。
さっきの話を踏まえて考えれば、凛緒が俺に怯える事なく会話が出来るのなら、じーさんとの思い出話を俺に沢山するという可能性も示せるからな。
「凛緒ちゃん、無理をしなくていい! 反対してあとで何をされるか分からないのが怖いというのなら、今からでも警察に……」
「いえ叔父様、本当に大丈夫よ。フクが蔵や私の部屋を調べて何か変わるのなら、私は調べて欲しいと思うわ。確かにあまり信用出来ない人ではあるけど、その人はあの桜野奏海さんが選んだ人なんだもの」
うわっ……変な事まで言うなよ……
まぁ確かに、副社長なんていう役職だったら、奏海に信用されていると思うのは無理もないがな。
俺達はそんな関係じゃない……
「ま、そーゆー事だ。さて、部屋を見せてもらうとしようか?」
「……分かりました。凛緒ちゃん、何かあったらすぐに連絡するんだよ? 携帯が奪われるような事があれば……」
「奪わねぇよ。奪うんなら、もっと前に奪ってる」
「大丈夫よ、叔父様。ありがとう」
凛緒は電話を切った。
あとで褒めてやるとするか……いや、別にエリンが褒めているだろう。
「仕方ありませんね、ご案内致します」
「あぁ」
座っていた席を立ち、部屋を出ていこうとしたところで、
「雄治朗さん? 今のはどういう事ですか?」
と、七緒が現れた。
まぁ出てくるとは思っていたがな。
七緒も今の電話を聞いていたんだから。
「七緒さん。どういう事とは?」
「凛緒はそちらの方に依頼をしたのではないのですか? 捕まっているだの脅迫だの……しまいには携帯を奪うだなんて!」
「七緒さんには関係のない事です。関わらないでいただけますか?」
「な、何を仰るんですかっ! 私は財前正宗の妻なんですよ! その孫である凛緒は、私の孫でもあります! 関係ないだなんて!」
「では、一度でも凛緒ちゃんから、お婆様と呼ばれた事がおありなのですか?」
「そ、それは……」
「あなたはあの証明書があるから家にいるに過ぎない。財前家の問題には関わらないでいただきたい!」
「……」
本当にドロドロのギスギスだ。
あーあ、なんで俺がこんな依頼をこなさないといけないんだ、全く……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)
おまけ 裏での乃々香
「早速ですが、凛緒ちゃんをホテルの部屋に閉じ込めているそうですね?」
「あ? 何言ってんだ? ボディーガードしてくれって依頼だったから、匿ってやってんだろ?」
「ふざけないでいただきたい。凛緒ちゃんから既に連絡は受けています。あの子が警察には言わず、穏便に解決させたいというから、私はこうしてあなたと話しているのですよ?」
「別に、警察に言いたいんなら、言えばいいじゃねぇか。そんなもん、スノーフレークでどうとでも出来る」
「えー、そんな事言っちゃってだいじょーぶー? 私は知らないからねー」
「スノーフレークは、今までも何度も警察と協力しているんですもんね。確かにどうとでも出来るのかも知れません。ですが、それはあくまでも桜野会長が信用されているという事でしょう? あなたではないはずだ」
「それがどうした?」
「桜野会長に知られるのは、あなたも困るのではありませんか?」
「知られるも何も、奏海ちゃんは全部しっとるわ~!」
「なら試してみようじゃねぇか。あんたと俺、奏海がどっちを信じるのか」
「……あなたは、そんなにも桜野会長に信用されているのですか?」
「俺とあいつが何年来の付き合いだと思ってるんだ?」
「1年と9ヶ月っ! ちなみに私は15年っ!」
「それほどの仲だというのに、桜野会長を裏切るのですか?」
「俺はガキのおもりに疲れてんだよ」
「誰がガキだ、こらぁー! 怒ったぞー! ちゃんと伝えるからなー!」
「そんな理由に、凛緒ちゃんを巻き込まないでいただきたい」
「別に巻き込んじゃいねぇさ。あいつは蔵が壊れてもいいと言っていた。つまり、いらないって事だ。そして依頼内容はボディーガードだろ?」
「あなたがうちの蔵を狙っていようと、凛緒ちゃんを匿っている以上は、依頼を実行していると言いたいのですか?」
「話が早いな」
「聞けー! 私の話を聞けー!」
「という訳で、蔵と凛緒の部屋を見せてもらうぞ」
「それは出来ません」
「何故だ?」
「あなたのような部外者に、我々財前家のものを触らせると思っているのですか?」
「触らねぇよ、見るだけだ」
「同じです!」
「女子の部屋を覗こうだなんてっ! 副社長、最低っ!」
「なら凛緒に連絡させてもらう。それで凛緒が見ることを許可したなら、俺に見る権利はあるだろ?」
「凛緒ちゃんがそんな許可を出す訳がない!」
「そう思うなら、お前が電話をかけてみろよ」
「……いいでしょう」
「効率重視! なかなか面白い人だねぇ……」
「あぁ、凛緒ちゃん? 私だ。少し聞きたい事があるんだが、今は大丈夫かい?」
「お、叔父様? はい……大丈夫です、よ?」
「大丈夫じゃないよっ! 折角エリンとババ抜きしてるところだったのにっ! 緊張感漂う、ババの取り合いだったのにっ!」
「今スノーフレークの方が家にみえているんだ。それで、蔵や凛緒ちゃんの部屋をみたいと言っているんだが……」
「おい、凛緒! 俺が見るのは構わないよな?」
「え、あ……あの、えっと……」
「早くいいって言え!」
「急かすな、急かすな」
「そんな凛緒ちゃんを脅すような真似は止めて下さい! 凛緒ちゃん、断ってくれていいんだ。凛緒ちゃんの許可さえなければ、この男には何も出来ないんだから。脅迫に屈する事はないよ?」
「ありがとう、叔父様。でもいいの。フク、蔵でも部屋でも、何でも好きに見ていいわよ。壊したりしないのなら、触ったり、動かしたりしてもいいわ」
「凛緒ちゃん……」
「ははっ、決まりだな」
「良かったね! 副社長! 女子の部屋へ入るお許しが出たよ!」
「凛緒ちゃん、無理をしなくていい! 反対してあとで何をされるか分からないのが怖いというのなら、今からでも警察に……」
「いえ叔父様、本当に大丈夫よ。フクが蔵や私の部屋を調べて何か変わるのなら、私は調べて欲しいと思うわ。確かにあまり信用出来ない人ではあるけど、その人はあの桜野奏海さんが選んだ人なんだもの」
「そうだそうだー! ちゃんと期待に応えろー!」
「ま、そーゆー事だ。さて、部屋を見せてもらうとしようか?」
「……分かりました。凛緒ちゃん、何かあったらすぐに連絡するんだよ? 携帯が奪われるような事があれば……」
「奪わねぇよ。奪うんなら、もっと前に奪ってる」
「大丈夫よ、叔父様。ありがとう」
「仕方ありませんね、ご案内致します」
「あぁ」
「良かったね、副社長!」
「お前、本当にうるせぇんだよ」