探り合い
副社長視点です。
財前家の入り口で女と話していると、身形のいい男が現れた。
その男が七緒と呼んだ事で、今俺が話していた女が、凛緒の言っていたじーさんの妻だって事も分かった。
「七緒さんは下がっていただいて構いません。こちらのお客様は、私がお相手致しますので」
「雄治朗さん……」
七緒がかなり嫌そうに俺を睨み、下がっていった。
残されたのは雄治朗とかいうこいつと俺だけ。
こいつが誰なのかは、すぐに分かった。
「あんた、叔父様って奴だろ? さっきの電話ぶりだな」
「そうですね。とりあえず、中で話しましょうか。こちらです」
エリンから、この叔父に凛緒が困っているという連絡をしたという報告は受けている。
だからこいつは今、俺が金目当てでスノーフレークに反して凛緒を捕らえていると思っているはずだ。
「どうぞ」
「あぁ……」
案内された和式の部屋……
よく分からん掛け軸も飾ってある。
茶を出されたが、困った事に俺はこういう場所での作法なんて知らんぞ。
何より、正座は苦手だ。
「早速ですが、凛緒ちゃんをホテルの部屋に閉じ込めているそうですね?」
「あ? 何言ってんだ? ボディーガードしてくれって依頼だったから、匿ってやってんだろ?」
「ふざけないでいただきたい。凛緒ちゃんから既に連絡は受けています。あの子が警察には言わず、穏便に解決させたいというから、私はこうしてあなたと話しているのですよ?」
「別に、警察に言いたいんなら、言えばいいじゃねぇか。そんなもん、スノーフレークでどうとでも出来る」
……多分、あくまでも多分だが。
一応強気な事を言い返してはいるが、実際に警察に通報された場合にどうなるのかは、俺には分からない。
まぁ、奏海がなんとかするんだろうが、確実に葵に怒られる。
それに俺は、瀧沢さんとはあまり関わりたくはない。
だから警察に知らせられるのは、本当は非常に困るんだ。
「スノーフレークは、今までも何度も警察と協力しているんですもんね。確かにどうとでも出来るのかも知れません。ですが、それはあくまでも桜野会長が信用されているという事でしょう? あなたではないはずだ」
「それがどうした?」
「桜野会長に知られるのは、あなたも困るのではありませんか?」
「なら試してみようじゃねぇか。あんたと俺、奏海がどっちを信じるのか」
「……あなたは、そんなにも桜野会長に信用されているのですか?」
「俺とあいつが何年来の付き合いだと思ってるんだ?」
まぁ、いうほど長くないがな。
精々2年ってところだ。
こいつがそれを知るよしはないだろうが。
「それほどの仲だというのに、桜野会長を裏切るのですか?」
「俺はガキのおもりに疲れてんだよ」
「そんな理由に、凛緒ちゃんを巻き込まないでいただきたい」
「別に巻き込んじゃいねぇさ。あいつは蔵が壊れてもいいと言っていた。つまり、いらないって事だ。そして依頼内容はボディーガードだろ?」
「あなたがうちの蔵を狙っていようと、凛緒ちゃんを匿っている以上は、依頼を実行していると言いたいのですか?」
「話が早いな」
理解力が高いみたいだ。
そのうえ頭の回転も早そうだ。
これは、油断出来ない相手だな。
「凛緒ちゃんは蔵の開け方を知りませんよ?」
「それはどうだろうな? 話によると、じーさんはかなりのキレ者だったそうじゃねぇか。そんな奴が、大切な蔵の開け方を知らせずに死ぬか? しかも、自分の病気の事は凛緒にしか話していなかったんだろ?」
「それは……」
「あんたも聞いてなかった事を、凛緒は聞いていた。となると、凛緒は開け方を知っている可能性が高いぞ」
まぁ、こんな事は、さっきの凛緒の話を聞けば、誰もが思いつく事だが。
これでこの叔父様がどんな反応をするかと確認していたところで、急に部屋の扉が開き、
「まぁ! やっぱりあの子、開け方を知っていたのね!」
と、おばさんが部屋にずけずけと入ってきた。
この格式高い家に似合わねぇババアだ。
「あ? 何だあんた?」
「あなたこそ誰よ! 雄治朗ちゃん? この方は?」
「あぁ……今、凛緒ちゃんを守ってくれている、スノーフレークの方ですよ」
「スノーフレーク? あぁ、あの何でも屋の? まさか雄治朗ちゃん? スノーフレークに依頼して蔵を開けてもらうつもり?」
「そういう訳ではありませんよ。ですが見ての通り今は来客中ですので、喜和子さんも下がっていてもらえますか?」
「……えぇ」
……ほぅ、なるほど、そう来るか。
今きたこのおばさんは、凛緒の言っていた、器物破損の親戚なんだろうが、叔父様とこの親戚は仲間ではないようだ。
俺の事を凛緒を誘拐した犯人だと言わないんだから。
同じ家に住んでるってぇのに、こんなにも互いを疑い合っているんだな。
金持ちってのも大変だ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)