盗聴器
凛緒視点です。
「とりあえずお前は、風呂に入ってこい」
「どうして? お風呂なんて夜でいいじゃない」
「いや、今すぐの方が都合がいい」
「何の都合よ?」
「俺の都合だ」
何故か急にお風呂へ行くようにと言われた。
まぁ別に何かやりたい事があった訳ではないので、別にいいのだけれど、どうして急にお風呂なんて……
訳が分からないままにお風呂に入る。
スノーフレークのホテルだけあって、アメニティは充実していた。
お風呂も大きいし、かなりゆっくりとくつろげた。
疲れが抜けていく感じがする……
もしかしたらフクは、私があまりゆっくりと休めれていない事を気にかけてくれた上で、お風呂に行くようにと言ってくれたのかしら?
……そんな事も考えながらお風呂から出てくると、私の服がなくなっていた。
着替えなんて持ってきていないし、私の服はあれだけなのだけれど……
仕方なくバスルームに服の代わりとばかりに置かれていたバスローブを着て、部屋へと戻った。
部屋に戻って一番に見えたのは、私の服を調べるかのように触りまくるフク……
「ねぇ? 調べるなら調べるでいいけれど、一声かけてからにしてくれないかしら?」
「あ? めんどくせぇ……」
フクは私の服を調べたかったから、風呂に入るようにと言ったみたいね。
間違っても私の疲労の心配をしてくれた訳ではないと……
「下着……どうしたの?」
「流石にそれは調べれねぇからな。捨てた」
「何を勝手に!」
「あー、今着る奴がないってか? おーい、エリン! 下着ー!」
「失礼致します。こちらを……」
フクが呼んだ事で、エリンさんが捨てられた下着の代わりに、新しい下着を持ってきてくれた……
着てみると、材質もかなりいいものだし、サイズも丁度いい。
流石は一流ホテルの従業員……
見ただけでサイズが分かったのかしら?
……と、そんな事は今はどうでもいいのよ!
「フク! いい加減にして! 勝手が過ぎるわ!」
「ほら見ろ、コレ」
「え?」
「盗聴器だ」
「まさか……」
「な? 調べて正解だっただろ?」
私の服には盗聴器が仕掛けられていたみたいだ。
全然気づかなかった……
こんなの、もう完全に犯罪じゃない!
「あの女……」
「お? 心当たりでもあるのか?」
「えぇ、きっとあの女の仕業だわ」
「まぁ、何処の誰でもいいがな……」
フクは興味もなさげにそう呟くと、
「おーい、聞こえてるか? 財前凛緒は俺が預かる事にした。だから、財前家の蔵のお宝も全部俺のもんだ」
と、演説でも始めたかのように言った。
「ちょっとフク? 急になんなの?」
「あ? 向こうで聞いてる奴に言ってるんだよ」
「聞いてるって、その盗聴器壊してないの?」
「あぁ」
「なんでよ! 早く壊しなさいよ」
「壊す前に、宣戦布告だろ?」
「は?」
フクの言っている事の意味が分からない……
「さっきも言ったが、俺は奏海に無理矢理スノーフレークの副社長なんてもんをやらされてるんだ。自分からやりたいなんて事は思った事もねぇ」
「えぇ、それはさっきも聞いたけど……」
「俺が財前家の蔵を開けられれば、その金は俺のものになる。そんだけ金があれば、もう奏海に従う必要もねぇ。遊んで暮らせるからな」
「ちょっと待って! フクが蔵を開けられたからって、別にフクのものにはならないわ」
「そこは取引だ。俺は開け方を教える代わりに、それなりの取り分がもらえれば十分だからな」
「まさか、その盗聴器の相手と取引するつもり?」
「この相手とは限らねぇさ。開け方を教えてやるっつって、一番俺に都合のいい奴に教えるさ」
本当に、フクは急にどうしてしまったんだろう?
さっきまでとまるで別人のように饒舌だ。
「なんにせよ、お前しか開け方を知らなくて、そのお前はここに閉じ込められるんだ。俺以外に開け方を教える事は出来ねぇだろ?」
「だから、私は開け方なんて知らないって!」
「もし本当に知らねぇのなら、こんな大事にはなってねぇよ」
「それは……」
本当に知らないのに、大事になって困っているから、スノーフレークに依頼したというのに……
「という事でだ、どこで誰が聞いてるかなんて知らねぇけどよ、蔵の開け方を教えて欲しければ俺を訪ねて来るこったな」
「ちょっとフク……」
「エリン! こいつはもう処分しておいてくれ!」
「かしこまりました、副社長」
フクは、盗聴器付きの私の服をエリンさんの方に雑に投げ、エリンさんは当然とばかりにキャッチした……
フクの豹変に対しても、何も言うつもりはないみたいだ……
「エリンさん!? あなた達、奏海さんを裏切るつもり?」
「裏切るもなにも、最初から忠誠なんてねぇ。仕方なく働いてただけだ。金さえ入れば働く必要もねぇからな」
「私は、奏海様を裏切ってなどおりませんよ? 単に副社長から特別手当てが頂けそうなので、協力しているまでです」
「そんな……」
「とまぁ、そういう事だからよ、お前はここに閉じ込められてろ。そんな悪い環境でもねぇんだし、別にいいだろ?」
「いいわけないでしょ!」
「あー、うるさいうるさい。今話をするのは無理そうだな。ま、そんなに急いでる訳でもねぇし、また来るわ。じゃあな」
フクは私にそれだけいうと、立ち上がってエリンさんと共に部屋の出入り口の方まで歩いていった。
そして、
バタンッ!
と、あえて音を立てるように扉を閉めて、出ていってしまった……エリンさんだけが……
思考が追い付かない……
今、フクはこの部屋から出ていく感じの捨て台詞を、私に言っていなかったかしら?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)