18 1-18 作戦開始
赤い羊視点です。
作戦決行の1日前。
学校で話す聖人ちゃんとモテ男君の声が、盗聴器から聞こえてきた。
「いよいよ明日ね、ペンギンパークのオープン」
「あぁ、俺達は遊べないけどな」
「パーク内の施設の場所は暗記したから、何処でも案内できるようになれたと思うの! 一応今日も復習するけど」
「流石だな。俺はまだちゃんと覚えれて無いから、少し不安だよ」
「空音なら大丈夫だよ。一緒に頑張ろうね!」
「おう! お客さん達に忘れられない最高の1日をプレゼント出来るといいな!」
「うんっ!」
「ふふふっ」
「ん? 葵ちゃん?」
「きっと最高の日になるわ。本当に楽しみね……」
「葵……お前もこの仕事やるのかよ?」
「いいえ、ただ知っているだけよ。明日が最高の日になるって事をね……」
「お、おぅ……そうだな。なるといいな……?」
モテ男君達に絡みに行く依頼人の声がした。
完全にモテ男君に怪しまれてるな……
これだと明日はモテ男君の警戒が強まるだろうな。
まぁモテ男君がどれだけ警戒しようが、俺には何の支障もないが。
だが、あれだけ冷静な依頼人がこんな行動を取るとは少し意外だった。
しかも笑っているようだし、明日が楽しみでしょうがないといった様子だ。
本当にモテ男君が絡むと、依頼人の思考能力は低下するんだな。
自分とモテ男君の、幸せな未来を夢見ているんだろう。
そんな未来、来る訳がないのに……
そして翌日、作戦決行の日。
俺は少し早く依頼人との待ち合わせの場所、ターゲットを狙う絶好のスポットでもある廃ビルの屋上へ行き、辺りを確認した。
特に異常は無い。
ペンギンパークを一望にできる上に、周りにも人は殆ど来ないという、最高の立地だ。
そして、そんな人が来ないはずの場所に、1人の少女が歩いてきた。
依頼人の刀川葵だ。
「おはよう……ございます? あなたが赤い羊さん?」
「はい、そうですよ。はじめまして」
俺が挨拶をすると、軽く頭を下げてきた。
もちろん辺りに他人の気配はないし、1人で来ている事は間違いない。
荷物は、少し大きめの鞄を1つだけか……
「鞄の中身の確認でもする?」
そう言って、鞄の中が見えるように開けて見せてきた。
中には俺に返す予定の物と、分厚い封筒、そして双眼鏡が入っている。
「もう、結構ですよ」
「そう」
依頼人はその鞄から双眼鏡を出した。
「あの女……もう見つけた?」
「見つけましたよ。現在、空音君がターゲットの近くにいるので、少々狙いづらい状況ですが……まぁ、問題ありません」
スノーフレークのバイトで雇われた人達は皆、目立つ色の上着を着ており、聖人ちゃん達はすぐに見つかった。
そして昨日の依頼人の発言で、今日何かあると思ったようで、モテ男君は無駄に辺りを警戒している。
聖人ちゃんの周りをチョロチョロと動くモテ男君は、正直がかなり邪魔だ。
だが、それはもう問題ない。
先に人混みで財布を盗んでいた奴を手下にしておいた。
警察に言わないかわりに、俺が連絡したら聖人ちゃんに絡みに行くように指示してある。
それをモテ男君が助ける事で、助けられた安心感からモテ男君の警戒は薄まるはずだ。
その隙を狙い、撃つ……完璧だ。
「あ、見つけた……いいわよ、いつでも撃って」
「分かりました。では、そろそろ始めるとしましょうか」
スコープから見える聖人ちゃんは、道案内をしているようだった。
そこから少し離れた場所に、さっきの盗っ人君が待機している。
俺は盗っ人君に連絡した。
作戦開始だ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)