失礼
凛緒視点です。
♪♪♪♪♪
「はい、凛緒ちゃん?」
呼び出し音が聞こえてすぐに、叔父様は電話に出てくれた。
忙しいでしょうに、申し訳ないわ。
「叔父様? 今、お時間を頂戴してもよろしいかしら?」
「あぁ、構わないよ」
「ボディーガードをお願いしたスノーフレークの方が、叔父様と話したいそうなの。代わるわね」
叔父様に断りを入れてから、フクに私の携帯を渡す。
雑に私の携帯を受け取ったフクは、
「あんたが叔父様とやらか?」
と、ぶっきらぼうに叔父様に話しかけた。
「あぁ、俺はスノーフレークのもんだ。……そうだな。……あぁ……」
財前グループを前にこんな話し方が出来るだなんて……
私は跡継ぎでも何でもないからいいにしても、現代表を務める叔父様に対してのこの話し方はどうなの?
桜野グループ会長である奏海さんの態度ならばまだ分からなくもないけど、フクは所詮副社長に過ぎないというのに……
しかも、副社長だと言っていないから、叔父様からしたらただの一社員に過ぎないはずだ。
「だから、もうあんたがこいつを心配する必要はない。事が解決するまでは、こいつはこっちで預かるからな。…………あぁ、じゃあな」
フクは叔父様との電話をきって携帯を私に返してきた。
「叔父様と会話して、何がしたかったの?」
「あ? 別に……ただのお前の預かり許可をもらっただけだ」
「叔父様に対してあの喋り方は失礼じゃないかしら?」
「そんな事俺が知るかよ」
「まさかフク? 普段から奏海さんに対してもそうなんじゃないわよね?」
「俺はいつもこうだが?」
「なんて、失礼な……」
奏海さんがまだ高校生だとしても、自分の上司じゃない!
いくら奏海さんが許してくれていたとしても、立場というものがあるのだから、改めないと!
「奏海さんは、フクの態度に対してなんと仰ってるの?」
「特に何も?」
「言われないからって、そんな態度はダメじゃない! 失礼にも程があるわ!」
「別にいいんだよ、奏海はそういう事を気にしない性格だからな。だがまぁ、秘書の方はうるさいな」
「秘書?」
「奏海の秘書だ。あいつは俺の事が嫌いだからな、なにかっちゃあ文句を言ってくる。身だしなみだの言葉遣いだの……」
「……はぁ、その秘書の方とは話が合いそうだわ」
こんな人がよくスノーフレークに入社できたものね……
それも副社長だなんて……
「ねぇ? フクはどうしてスノーフレークの副社長になれたの? 奏海さんとは最初から知り合いだったの?」
「急になんだ?」
「少し、気になって……話せないことなのなら別にいいのだけれど、奏海さんがどうしてフクを副社長にしようと思ったのかが、全く理解できないからね」
「お前、やけに奏海の事を気にするな?」
「あ、実は私、奏海さんに憧れてるの。財前家の事が落ち着いたらスノーフレークに入社したいとも思ってるわ。だから今回の事もスノーフレークに依頼したのよ。私が一番信用出来る会社だからね」
「ふーん、やめた方がいいぞ」
フクは鼻で笑うように、バカにした様子でそう言ってきた。
でも私をバカにしているというよりは、スノーフレークをバカにしているみたい……
「さっきの質問に答えてやるよ」
「え?」
「俺は、奏海と知り合いでも何でもなかったし、スノーフレークで働きたいなんて事、これっぽっちも思ってない。それは今もだ」
「じゃあ、どうしてスノーフレークで副社長なんてやってるの?」
「奏海にやれと言われたからだ」
「知り合いでもなかった奏海さんに?」
「あぁ。いきなりスノーフレークに連れていかれて、副社長をやれと言われた」
「断らなかったの?」
「ふっ、俺に断る権利なんざねぇよ」
呆れたように笑うフク……
働きたくもないスノーフレークで、知り合いでもない奏海さんに言われたから働いているだなんて……
断る権利がないから、仕方なく従っているというニュアンスだった……
まるで、奏海さんに弱みを握られてしまっていて、嫌でも従わないといけないような……
でも、奏海さんはそんな方ではないはず!
そんなに詳しく知っている訳ではないけれど、私の憧れの方だもの!
第一、仮ににフクが奏海さんに脅されているような状況なのなら、フクの態度だってここまで横暴ではいられないはずよね?
「さ、無駄話はここまでだ。行くぞ」
「行くって、何処へ?」
「ホテルだよ、ホテル。お前、あんまり寝れてないんだろ? 今日はホテルに帰って寝るのがいい」
「あら、心配してくれてるの? ありがとう」
「ったく、行くぞ」
「えぇ」
さりげなく伝票を持ってレジの方へと行ってくれた。
私が食べたものなのだから、私が払うのが筋なのに……
まぁ、経費としておとしてくれるのかもしれないし、依頼達成時に請求されるのかもしれないけど。
それでも、伝票を持たれるというのが初めての経験だったから、少し驚いた。
今まで食事をした人達は皆、私がお金持ちだからと会計は当然のように私に任せる人達だったから。
フクは色んな意味で、私の今までの常識を覆してくれる存在かもしれないわね。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)