無価値
凛緒視点です。
「そいでまぁ、お前さんは知りもしない蔵の開け方を知る者として、狙われてるって訳だな」
「えぇ」
「具体的には何がされた?」
「最初に部屋を荒らされたわ。それは一応、叔父様が止めて下さったのだけれど、それでも大切な物をたくさん壊された」
「それを訴えなかったのか? 器物損壊罪だろうに」
「壊した物は弁償してくれるそうよ。とてもたくさんの謝罪の言葉を言ってくれたわ」
本家ではないにしろ、あの親戚の人達だって財前グループの一員だ。
だから、器物破損くらいは簡単に弁償できてしまう。
でも、思い出も何もない、ただ同じなだけの物をもらったところで、何の意味があるというのだろうか?
そんなものは、心の込もっていない謝罪の言葉と同じ、無価値なものにしか思えない……
「その後はよく分からない薬の入った食事が出された事があったわね」
「食べたのか?」
「いいえ。食べる前に気がついたから、食べなかった」
「どうやって気がついた?」
「もともと警戒をしていたというのもあるけど、明らかに錠剤のようなものを砕かれた何かが見えたのよ」
「……そうか」
さっきフクが言っていたように、私が殺される事はない。
私を殺してしまえば、蔵の開け方が分からなくなってしまうから。
だからその変な薬を飲んでも死ぬ事はなかっただろうけど、そんな変なものは食べたくない。
「他には?」
「私の留守中に、部屋がもう一度荒らされた事があったわね。それに、ずっと誰かに尾行されているような感じ……」
「まぁ、彼処にもいるしな」
「え?」
「あそこの奴、ずっとお前を見ているからな」
「そんな、分かっているのならすぐに捕まえて頂戴よ」
「あいつを捕まえるのなんていつでもできるだろ?」
「でも、捕まえて犯人を聞けば……」
「犯人なんざ割り出す必要はねぇ。親戚中全員が犯人だと思っておけ」
それは、思ってるけれど……
「ああいうのは無視でいいんだ。お前に実害のある奴を消すのが俺の仕事だからな」
「あれも十分に実害なんだけれど……」
「あれは雇われてるだけだろうから、いいんだよ」
「フクがそう言うなら、それでいいわ」
確かに、あれを捕まえてもまた次の人が雇われるだけだろうし……
「にしても、留守中に部屋を荒らしたり、食事に錠剤となると、家の中の奴が一番怪しい事になるが、親戚達は家で共に暮らしてる訳じゃないんだろ?」
「いいえ。数人は本家に留まってるわ。大切なお祖父様を亡くして傷心している私のメンタルケアという名目でね」
「分かりやすい奴らだな。で、お前はどうしてるんだ?」
「当然家には帰れないからね。その辺のホテルに適当に泊まってるわ。一応叔父様に無事の連絡はしてるから」
「その叔父様ってぇのは信用できるのか?」
「叔父様は唯一私が蔵の開け方を知らないと、納得して下さっている方よ」
「なるほどな……」
財前グループを継いだ叔父様は、一族の中でも一番力がある。
その叔父様が私は本当に知らないのだと皆に言ってくれているというのに、誰も納得しないんだから、どうしようもない。
それに、どう考えても犯人としか思えないあの女もいる……
だから家にも帰れない……
「ホテルはどこを使ってた?」
「一応信頼度の高い、スノーフレーク系列のホテルを使っていたわ」
「なるほどな。なら、今日からはここを使え」
「ここは?」
「スノーフレークの中でも、一番いいホテルだ。ルームサービスも好きに頼んでいいが、仕事達成時の支払いがかさむぞ」
「……分かったわ」
こんな言葉に、これ程に安心出来るとは思わなかった……
仕事達成時の支払いという事は、フクはこの依頼を達成してくれる気があるという事なんだから。
それが凄く嬉しかった。
「それから、一度叔父様とやらと話させてくれ」
「フクが叔父様と話すの?」
「あぁ……」
「分かったわ。いつでも連絡してきていいと言ってもらってるし、すぐにも電話出来るけど、今でいい?」
「そうだな、それがいいだろう」
店内で電話をかけるなんて、他のお客様にご迷惑な気もしたけれど、今はそんな事を言っていられる場合ではないから。
申し訳ないとは思いながらも、私は叔父様へ電話をかけた。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)