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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode7 開かずの蔵と記憶編
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器物破損

凛緒視点です。

「さて、そろそろ依頼内容の確認をしてもらおうか」

「スノーフレークは情報共有の出来ない会社なの?」

「……あのなぁ、俺が気に入らねぇのか何なのかは知らねぇが、めんどくせぇんだから、いちいち噛みついてくるな」

「別に、気に入らない訳ではないけど……」


 私の依頼を受け付けてくれたお姉さんは、かなり若くて正直新卒採用で働きだしたばかりといった様子だった。

 対応は非の打ち所もないほどにしっかりとしていたけれど、だからこそのマニュアル通りという感じもしたし……

 スノーフレークの情報伝達力を疑った訳ではないけれど、あの受け付けのお姉さんがちゃんと伝えているのなら、話す必要もないと思っていたのに……

 それとも、あのお姉さんは信用できない人なのかしら?


「人を疑う癖がついちまってるみたいだな」

「そうかもしれないわ」

「人ってぇのは、それぞれ捉え方の違う生き物だ。泣ける話を100人に聞かせたところで、本当に泣くやつなんざ、半分いればいい方だろう」

「そうね」

「お前の話を受け付けが聞くのと俺が聞くのでは、話はまた変わってくる。さらに言えば、話す人によっても話の印象は変わる。どれだけ完璧に伝達していたとしても、依頼者当人に話させる事に意味がある」

「分かったわ。ごめんなさい」

「急にしおらしくなるなよ……チッ」


 苛立った様子で怒りながら話してきたから謝ったのに、また舌打ちをされた。

 面倒な人……


「私は財前グループ前会長である、財前正宗の孫、凛緒」

「あぁ」

「私の両親は、私が産まれてすぐに2人共交通事故で亡くなったそうよ。だから私はお祖父様に育てられた」


 お祖父様は私の事を本当に愛してくれていた。

 財前グループ会長ともなれば、仕事だってかなり忙しいはずなのに、毎日私と遊んで下さった。

 でも……


「3ヶ月前、お祖父様は亡くなってしまったわ……」

「事件性は?」

「ないわ。私以外の誰にも話していなかったみたいだけど、結構前から病気だったの……」

「ってことは、お前は知ってたんだな?」

「えぇ。だがら、それなりの覚悟もずっとしてた」


 だからといって、簡単に受け入れられるものではないけれど……


「財前グループそのものは、叔父様が引き継いで下さったから、会社は特に問題はなかった。問題になったのは家の方……財前家には、とても大きな蔵があるの。でもその蔵の開け方を知るのは、代々財前家の当主のみ」

「で、じーさんは開け方を誰にも伝える事なく、逝っちまったんだな」

「……えぇ」


 私も蔵があることはもちろん知っていた。

 でも、ただの物置蔵だと思っていた。


「会ったこともないような遠い親戚達も家に押しかけてきて、大騒ぎになったわ。蔵の中にはとても高価なものや、文化遺産が入っていると」

「それなのに開け方が分からねぇんだからな」

「そんな騒々しい話し合いの中で、どこの誰とも分からない親戚の1人が急に呟いたの。"凛緒ちゃんなら、知ってるんじゃないか?"ってね」


 あの会議は本当に喧しかった。

 あの男の言葉を合図に、


「そうだ、凛緒ちゃんなら知ってるだろ?」

「正宗さんもあれだけ可愛がっていたんだから!」

「あぁ、あの正宗さんが、誰にも伝えないなんて事をされる訳がないんだから」

「凛緒ちゃん、何か聞いている事はないか?」

「なんでもいいんだよ、知ってる事を教えてくれ」


と、全員が私の元に詰め寄ってきた。

 それまで話した事もないような人達が、まるで昔からの知り合いであるかのように馴れ馴れしく……

 瞳をギラギラと光らせて……


 大体、お祖父様が亡くなったというのに、この人達は蔵の事ばかり。

 本当になんて気持ちの悪い人達なんだろう……


 私はそんな感想しか持てず、彼等に対して何も言えなかった。

 そうしたら、1人が急に、


「ねぇ? 凛緒ちゃんの部屋はどこなんだい?」


と、恐ろしい事を言い出した。


「へ、部屋……?」

「そうだよ、部屋。正宗さんからの貰い物とか、飾ってあるだろ?」

「ありますけど、そんな蔵の開け方を示したものなんて……」

「いや、隠してあるのかもしれない!」

「凛緒ちゃん! 部屋どこ?」

「おいっ! 俺が最初に思いついたんだ! 最初に探すのは俺だ!」

「何言ってやがる!」


ドタドタドタッ!


「あっ! アイツ……おい、俺達も探すぞ!」

「待ちなさい! 正当な相続の権利があるのはうちなんです! うちが先よ!」


ビリビリ バキッ! ドサッ!


 誰の許可を得て私の部屋を荒らしているのか……

 人の大切な思い出をなんだと思っているのか……


「なぁ? 一応聞いておくが、お前はその蔵の開け方を知らないんだな?」

「知っていたら、こんな事になる前に開けてるわ。私は元々あの家を出るつもりだったし、あの蔵の中に何が隠されていようと、興味がないもの」


 あんなもののせいで私が狙われてしまってる……

 私にとっては、本当にただ迷惑なだけの蔵。

 なんなら壊そうとした事だってある。

 別に中の物がどうなろうと、私の知るところではないから。

 まぁそれは叔父様に、重要な文化遺産があるかもしれないからと止められてしまったけれど……


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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