特例
episode7になります。
副社長視点です。
スノーフレーク本社にある社長室。
そこが俺の仕事場だ。
社長である奏海はほとんど会社にはいない。
奏海のいない時、この社長室は完全に俺の仕事部屋となる。
もちろん社長の椅子になんて座らないがな。
社長室に設けられた俺の席で、奏海ではなくとも構わない書類作業を片付けるのが俺の仕事だ。
そしてたまに部屋へとやってくる奏海に報告をし、新しい仕事を任される。
そこそこに仕事が片付けば、副社長室へ行き、風呂に入り、寝る。
そして起きたらまた、社長室で仕事をする。
そんな日々だ。
俺の食事は、スノーフレークの社員食堂のあまり物だ。
毎日朝昼晩と、3食を誰かしらが持って来てくれるからな。
ありがたい事だ。
つまり俺は、このスノーフレーク本社のビルから、一歩たりとも外へ出る事なく生活をしているという事だ。
だというのに……
「ねっ! お願いしますよ、副社長!」
「紅葉……」
今俺は、紅葉からとんでもない提案をされたところだ。
紅葉はこの俺に、外へ仕事に行けといってきたんだ。
「あのなぁ、紅葉。俺はここからは出ねぇ。そういう約束だ」
「特例という事で」
「特例もなにもあるか!」
「ですが……」
一向に引きそうにない紅葉をどうしたものかと悩んでいると、
「何を揉めてるの?」
と、奏海が葵と一緒に帰ってきた。
「あ、お帰り~」
「ただいま。それで、何が特例なの?」
「実はね、新しい依頼を受けたんだけど、その適任者が副社長しかいないの。それで、副社長に行ってもらいたいなーと」
「それはダメよ。紅葉、あなただって分かっているでしょう?」
「そうだ、そうだ。葵の言う通り」
「副社長と意見が合うだなんて、虫唾が走るけど、こればっかりはしょうがないわ」
言い方、言い方よ……
ほんと可愛くねぇガキだ。
「そんな特例をださないといけないだなんて、どんな依頼なの?」
「頭がよくて、腕のたつ人材を、しばらく自分のボディーガードにつけてほしいっていう依頼。因みに金額は1日がこれ」
「あら、こんなに? どこかのお嬢様?」
「ま、そんな感じ」
「これは確実に受けないとね」
「でしょ?」
スノーフレークは金さえもらえば何でもやる何でも屋だ。
だが、別に金に執着している訳ではない。
なんたって社長は、超大金持ちの桜野グループの会長なんだからな。
だから今のも、金がとんでもねぇ額だから依頼を受けようという話ではなく、ここまでの金額を出して来るんだから、相当に困っているのだろうと察した結果の発言だ。
「でも、何で副社長? こういう依頼なら、真でいいじゃない」
「もちろん最初は真に行ってもらったよ。でも、追い返されたの」
「追い返された?」
「見た目が弱そうだというのと、若すぎるって」
「なにその理由……」
「もっと見た目からして強そうなのがいいって事ね……」
確かに真は、一見するとただのヒョロガリだからな。
あれで結構腕は立つんだが……
「真を変装させて行かせるっていうのも考えたんだけど、やっぱり依頼人を騙しているみたいになっちゃうし」
「そうね。信用は第一に考えないと」
「でしょ? だから副社長しかいないと思って……」
「でもね、特例だなんて一度許してしまうと、段々と緩くなっていってしまうものなのよ?」
「それは分かってるけど、この依頼の適任者が他にいないでしょ? 若いのがダメって言われてる時点で、奏海や葵だってダメなんだから」
「おい、俺を年寄り扱いするな!」
俺はまだ32歳だ!
まだまだ若いわ!
まぁ高校生のこいつらからしたら、年寄りだろーがな。
「仕方ないわね。今回だけ特例って事で、副社長に行ってもらいましょうか」
「はぁ!? 奏海、お前までなに言い出してんだよ」
「仕方ないでしょ? 他にいないんだから」
「藤雅さんでいいだろーが!」
「あ、藤雅さんは顔バレしてるからダメだよ」
「くそっ!」
何で俺が……
「待って奏海。私も反対。流石に副社長を外へ出すなんて……」
「だよな? だいたい俺はそんなに強くもねぇ。頭は切れるがな!」
「そこは二重の意味もかねて、乃々香についてもらうから」
「……うーん、まぁ、それなら……」
「おい待て! 諦めるな葵!」
「うるさいわよ」
全く人の話を聞かない話し合いの結果、俺は外へ出ることになってしまった……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)