宝物
陽日視点です。
私がお風呂から出てくると、楽しそうな乃々香ちゃんの笑い声が聞こえてきた。
お兄ちゃんが帰ってきているみたいだし、乃々香ちゃんと話をしているんだろう。
なんか"かずっきー"とか聞こえるし、仲も良さそうで安心だ。
「お兄ちゃん、おかえり。今日もおつかれ様」
「おう。陽日もありがとうな」
「ううん」
邪魔しちゃ悪いかとも思ったけど、あんまり長風呂だと思われると、乃々香ちゃんも心配しちゃうだろうからね。
「陽日ちゃんもおかえりー」
「乃々香ちゃんがお風呂をピカピカにしてくれたお蔭で、いつより疲れが取れた気がするよ! ありがとう」
「それは良かったー」
「乃々香ちゃんはまだいても大丈夫なの? もう結構遅い時間だけど?」
「大丈夫だよー。どうせ連絡の1つもしてこないし……ん? あれ?」
乃々香ちゃんは自分の携帯を確認して、不思議そうな顔をしていた。
「どうかしたの?」
「奏海ちゃんから、連絡が来てる……」
「え? 急用? 大丈夫?」
「うん、大丈夫……」
大丈夫とは言ってるけど、いつもの明るく元気な乃々香ちゃんらしくない……
奏海さんは確か、乃々香ちゃんの一番の親友で、乃々香ちゃんが住まわせてもらってるお家の人だったはずだ。
お金持ちの……
「おい、乃々香。無理しなくていいんだぞ? 何かあったんなら、早く帰ったら方が……」
「あ、ううん。本当に大丈夫だよー。ただ、奏海ちゃんからの連絡なんていつも来ないから、ビックリしただけ」
「急用の連絡じゃなかったの?」
「うん! 明後日まで家に帰らないって連絡だった。いつもは連絡もなしにどっか行っちゃうし、居ると思って会いにいっても居なかったするんだよね」
「そんな感じなのか……」
なんか、結構酷い人だな……
なんでその人が乃々香ちゃんの大親友なんだろう?
「でも、今日は連絡が来た! それに、私の心配をしてるみたい! ほら!」
乃々香ちゃんは凄く嬉しそうに携帯の画面を見せてくれた。
そこには、
明後日までは家に帰らないから、乃々香が早くに帰ってきても私は居ないから。
あまりご迷惑をお掛けしないように、帰りなさいね。
くれぐれも、ペンダントはなくさないように気をつけて。
と、書いてあった……
これ、乃々香ちゃんを心配してくれてるメールなのかな?
注意ばかりが書いてあって、どちらかと言えば冷たい印象を受けるんだけど……
「えへへ~。奏海ちゃんからの連絡だ~」
「嬉しそうだな」
「うんっ!」
本当に乃々香ちゃんは嬉しそうに笑ってる……
このメールも、乃々香ちゃんには何か別の伝わり方がしてるのかな?
「ペンダント、なくさないようにって……この間のあの事だよな? 本当に悪かった……」
「気にしなくていいよー」
「でも宝物だったんだろ?」
「うん、宝物だよー。ほらこれー」
「宝物なのに、いいのか? 俺に渡して」
「かずっきーなら大丈夫だからね!」
「ありがとう」
乃々香ちゃんはあの宝物のペンダントを、お兄ちゃんに渡してくれた。
お兄ちゃんからしたら、複雑だろうな……
1回あれを捨てるって言っちゃってるから……
でも、こうやって乃々香ちゃんが渡してくれる事は嬉しそうだろうな。
「なぁ? なんで、これが宝物なんだ? 何か思い出のものなのか?」
「思い出も思い出! これはね、お母さんの形見的なものなのですよー!」
「え……」
「しかもねー、ただの形見じゃなくて、1回カラスに盗まれた形見なのですよー!」
「カ、カラス……?」
「でー、木の上にいっちゃって、誰も信じてくれなかったのに奏海ちゃんだけは信じてくれて、これがきっかけで奏海ちゃんとお友達になれたんだー!」
「ん? んん?」
乃々香ちゃんはペンダントが宝物な理由を話してくれたけど、いまいち話が分からなかった。
ただ、とても大切なものなんだって事は分かる。
「なぁ、これ。もともとはペンダントじゃないんじゃないか?」
「そうだよー。お母さんが毎日着けてた髪飾りだったの」
「それをペンダントにしたのか?」
「うん。くー君がしてくれたんだ! 私は結構動くし、髪飾りとかつけてたら、直ぐに落としちゃうからね!」
「木の上とか屋根の上なんか走ったりするからだろ?」
「そうそう」
乃々香ちゃんは笑いながら楽しそうに話してる。
でもお兄ちゃんはかなり暗い顔をしてる……
「でさ、乃々香。そのくー君って誰?」
「幼馴染みー」
「ふーん。くー君が作ったアクセサリーが宝物で、いつもつけてるんだな……」
「そうだよー」
お兄ちゃん……
くー君さんの事をかなり気にしてるみたいだ。
くー君さんは奏海さんの事が好きだから大丈夫だよって言いたいけど、私が言うのもおかしいし……
この微妙な空気を改善する為に、私はどうしたらいいんだろう?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)