身軽さ
一輝視点です。
「一輝君今日もありがとうね」
「お疲れ様でしたー」
バイトが終わり、急いで家に帰る。
ここ最近は、帰る前に公園や少し高くて辺りを見渡せる場所に行ったりしていたけど、今日はそれよりも急いで帰った方がいい。
陽日が照が見つけたっていう、乃々香の知り合いに会いに行ったはずだから。
あまり期待は出来ないかもしれないけど、何か手掛かりはあるかもしれないし、会いに行ってどうだったのかを早く陽日に聞きたい。
もしかして、もしかすると、本当に乃々香に会えているかもしれないんだし……
バイト中もそれが気になって仕方なかった。
走って家に帰ってきて、玄関の戸を開けると、
「あっ! あぁ、お兄ちゃんか……おかえり」
と、少し残念そうな陽日が出迎えてくれた……
「な、なんだよ? なんか、残念そうだな?」
「残念じゃないよ? ただ、ちょっとね」
「乃々香来たのか?」
「ののかちゃーん?」
「えー?」
「ううん。お兄ちゃんだった」
皆して玄関に来てくれたけど、皆が待っていたのは乃々香だったみたいだ……って、え?
「まて、乃々香がくるのか?」
「うん。21時くらいって言ってたんだ」
「21時って……」
時計を確認すると、今が20時50分だった。
確かにそろそろ21時だ……
「ってか、乃々香と約束したのか? 乃々香に会えたのか?」
「ううん。乃々香ちゃんの知り合いの人? お友達? よく分からない人だったけど、今日の夜に乃々香ちゃんを家に向かわせるって約束してきたんだ」
「向かわせるって……」
なんだその、乃々香の意思は全く無視されてるような感じは……
「そいつ、本当に乃々香の知り合いなのか?」
「うん。多分……」
「でも、よく分からない人だったんだろ?」
陽日には、人を見る眼があると俺は思ってる。
だからその陽日が変な奴で、信用できないと思ったのなら、俺も信じないつもりだ。
「よく分からない人っていうか、こっちの状況を知らないはずなのに、よく分かってくれる人みたいな? 凄く優しそうな人だったよ」
「そうか?」
「うん。なんか、変わってるっていう意味では、乃々香ちゃんと似てるなって思ったの。この人なら、本当に乃々香ちゃんの友達なんだろうなって確信が持てるというか……」
「そうか……」
で、その人が乃々香を向かわせると言ったって事か……
「そろそろ21時だな」
「うん」
「光、照、眠くないか?」
「うー、ののかちゃんくるまでおきてるのー」
「のー!」
「一応、夜起きてられるように夕方からずっと寝てたから、大丈夫だと思うんだけど……」
「来なかったらが心配か?」
「う、うん……あと、何て言えばいいのかが……」
と、玄関でそんな話をしていたら、
「わぁー! 皆丁度玄関にいたんだねー!」
と、玄関の先の外に急に乃々香が現れた。
「の、乃々香?」
「うん!」
「乃々香ちゃん!」
「ののかちゃーん!」
「乃々香っ!」
「わー!」
靴もろくに履かずに、皆が乃々香の方へと飛び出して行った……
「皆ごめんねー! 皆が結構心配してくれちゃってるって聞いてねー」
「わー、ののかちゃんだー!」
「乃々香ちゃんだよー!」
「乃々香ちゃん、怒ってない?」
「怒る? 何に?」
「良かった……」
「うぇっ!? ど、どうしたの陽日ちゃん? そんな泣いちゃって……」
「ご、ごめん……乃々香ちゃんに会えたのが嬉しくて……」
俺達と乃々香とのテンションに、かなりの差があるな……
やっぱり怒ってて来なくなったんじゃないかとか、もう俺の顔なんてみたくないから逃げてるんだとか、色々考えてたのがバカみたいだ。
本当にただ、忙しくて来れなかっただけなんだろうな。
あんなに走り回って、必死になって探した相手がこの反応とか……
本当に俺、バカみたいだった……
でも、本当に良かったと、今まで俺を苦しめていた錘が全て、外れたような身軽さを感じた……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)