偏見
陽日視点です。
乃々香ちゃんと会ったあの日から、もう1ヶ月以上の時が経った。
「きょうはののかちゃん、来てくれるかなぁ?」
「……どうだろうね」
もう毎日の恒例のようになった光の言葉に返事を返しながら、ご飯を作る……
はじめの頃には、"きっと来てくれるよ!"と、返す事が出来ていたのに、今はもうそれも出来ない……
あんな事があったんだから、この家に来たくないというのは分かる。
でも、お兄ちゃんはちゃんと謝って、また遊びに来てくれるように約束してきたって言ってたのに……
まさか、お兄ちゃん……
「おはよう……」
「おはよう、お兄ちゃん……」
「陽日? どうかしたか?」
起きてきたお兄ちゃんは、私の様子にすぐに疑問をもったみたいで心配してくれた。
こういう優しいお兄ちゃんなのは間違いないし、嘘をついたりする人ではない事は分かってるんだけど……
「ねぇ、お兄ちゃん……本当に乃々香ちゃんに会ったんだよね?」
「……あぁ」
「それで、乃々香ちゃんにちゃんと謝ったんだよね?」
「あぁ」
「ペンダントだって、返したんだよね?」
「返した……」
「だったら、どうして乃々香ちゃんはちっとも家に来てくれないの?」
「知らねぇよ」
「お兄ちゃん、本当に……」
「本当の本当に言ったさ! ちゃんと謝ったし、ちゃんとペンダントも返したし、また遊びに来てくれって頼んだんだ! なのに……なのにっ! 乃々香はちっとも来ねぇし、あの時会った場所に行ってもいねぇし、どれだけ探しても……」
「ごめん、ごめんね、お兄ちゃん……」
疑う私に、お兄ちゃんは声を荒らげるように強く反論してきた。
でもだんだんと落ち込んでいって、とても苦しそうな顔をしている……
最近のお兄ちゃんは、いつもより早くバイトに行っていたし、帰って来るのも遅かった。
凄く疲れてるみたいで、帰ってきてもすぐに寝ちゃうし、今日もそうだけど起きて来るのが遅い……
これは、いつも乃々香ちゃんを探してくれていたからだったんだ……
そこまでしてくれていたお兄ちゃんを疑ってしまった事を、申し訳なく思う……
「お兄ちゃん、本当にごめんね……」
「いや、陽日は何も悪くないから……俺があの日、無理矢理にでも家に連れてこればよかった……」
「私も乃々香ちゃんを探すよ!」
「陽日……」
「もしかしたら乃々香ちゃんは、もう私達とは関わりたくないのかもしれないけど、こんな別れ方なままなのは、絶対に嫌だから!」
乃々香ちゃんの宝物であるペンダントもちゃんと乃々香ちゃんの手元にある以上、乃々香ちゃんがここに来る必要なんてない。
お兄ちゃんが謝ったとはいえ、あんな酷い事をしてしまったんだから、まだ怒ってるのかもしれないし、もう私達に会うのが面倒だと思ってしまっているのかもしれないけど、それでもちゃんと話し合いたい!
「関わりたくないとは、思ってないと思うんだ……あの日会った感じからすると……」
「お兄ちゃんが謝って、許してくれてる感じだった? もう本当に怒ってなかった?」
「許してくれてるっていうか、そもそも怒ってなんていなかったと思うんだ……それに、俺の間違いも冷静に正してくれたし……あんなに嬉しそうに喜んでたし……」
お兄ちゃんもいっぱい悩んでるんだ……
どうして乃々香ちゃんが来てくれないのかを……
「多分だけど、乃々香は仕事が忙しくて来ないだけだと思うんだ……いや、俺がそう思いたいだけなのかも知れねぇけど……」
「どんな仕事をしてるんだろ?」
「それは隠してるみたいだったからな……」
「じゃあ仕事から見つけるのは無理だね……また公園とか行って探すよ」
「それも無理だと思うぞ……こんだけ探してもいねぇし、あの日だって乃々香は屋根の上を走ってたのをたまたま見かけただけだったし……」
「それなら普通に探しても見つからないね……」
乃々香ちゃんは、本当に何者だったんだろう?
どうやって探したらいいんだろう?
「兄ちゃん、姉ちゃん……これとかどう?」
晃人がポストに入っていたチラシを持ってきてくれた。
その中の1枚を広げて、私達に見せてくれてる……
「何でも屋、スノーフレークか……」
「これってお金さえ払えば何でもしてくれるっていう、あれだよね……」
「凄い有名だし、もしかしたら乃々香の事も見つけてくれるんじゃないかな?」
「でもな晃人、これはお金がいるんだよ……」
「一応どれくらいかかるのか、見積りだけでも聞いてみる? 無料みたいだし……」
「いや、悪いけどこういうのはやっぱり……」
「そうだよね……」
お金持ちだからって敵じゃないんだって、あの日からお兄ちゃんの考え方は少し変わった。
でも、お金さえあれば何でも出来るみたいな考え方が嫌いなのは変わっていない。
それに、私もそこは同感だ……
この何でも屋スノーフレークとかは、まさにお金さえあれば何でも出来る、何かしてほしかったら相応のお金を出せ……という会社なんだから。
やっぱり頼る気にはなれないな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




