間違い
一輝視点です。
俺が金持ちを嫌いだと分かってる癖に、乃々香は何故か自分が金持ちであるかのような発言をしてくる……
その事を少し感情的になって言うと、乃々香に俺が間違っていると言われてしまった……
俺の何が間違っているのかが分からない……
でも、ここで更に感情的になってしまえば、俺はもう乃々香と分かり合う事が出来なくなってしまう気がした……
だから冷静に、冷静に……
「俺の、何を間違ってると思うんだ?」
……ちょっと喧嘩腰になっちまったけど、怒鳴ってないし、乃々香も呆れたような態度から変わっていない。
怖がらせてはいなさそうだ。
……いや、乃々香は例え怒鳴っていたとしても、呆れた態度なのは変わらなかっただろうな……
肝の据わった奴だから……
「私の考え方と一輝お兄ちゃんの考え方が違うのは当たり前だし、これは私の価値観だから、一輝お兄ちゃんに押し付けたいわけじゃないけど……」
「なんだよ?」
「お金持ちだからって人を見下す訳じゃないし、お金を持っていない人を嘲笑って生きてる訳じゃないよ?」
「は?」
「お金を持ってない人だって、人を見下す事はあると思うし、お金を全然持っていなくても、もっと持っていない人がいたら嘲笑う人もいるんじゃないかな?」
「何言ってっ! っ……くそっ!」
……これじゃ昨日と同じだ。
乃々香の言ってる事にムカついたから大声を出して怒鳴り付けた。
その怒りのままに追い出して、乃々香の意見を聞こうともしなかった。
……乃々香が正しいって思いたくなんてなかったから……
あの時乃々香が言った、
"金持ちは、お金を持っているからこそ、お金では買えないものがあることを知ってる"
というのは、俺の今までの考えを全て否定するような言葉だった。
そして俺は、そっちの方が正しいんじゃないかと、思いかけてしまった……
だから急いで乃々香を追い出したんだ……
そんな事、認めたくなくて……
でも乃々香は今、自分と俺の価値観が違うと言ってきた。
俺に自分の価値観を押し付けたい訳じゃないと言ってまで、俺に自分の間違いを気付かせようとしてくれてるんだ……
「ねぇ、一輝お兄ちゃん……」
乃々香が俺を目を、真っ直ぐに見つめて聞いてくる……
「一輝お兄ちゃんが本当に嫌いなのは、"お金持ちの人"なの? それとも、"人を見下している人"なの? どっち?」
「そ、そんなの……」
そんなの、答えは決まってる。
「俺は、人を見下す奴が嫌いなんだ!」
そこに、金持ちかどうかなんて、関係ないんだ!
俺はいつの間にか、金持ちなら絶対に人を見下すものだと、決めつけてしまっていたんだな……
「そうだよね? やっぱり、そうだよねっ!」
乃々香は、さっきまでの呆れたような顔が嘘だったみたいに破顔して、凄く喜んでくれた。
「私も嫌いだよ! 人を見下す人なんて」
「あぁ」
「私はきっと、一輝お兄ちゃんのいうお金持ちに該当しているけど、自分が嫌いな人を見下すような人には、ぜったいになりたくないと思ってる」
「あぁ、そうだな……乃々香は人を見下したりなんてしてないな」
「だねよ? じゃあ、一輝お兄ちゃんは、私の事を嫌いじゃないんだね?」
「き、嫌いじゃない……」
「私、金持ちだよ?」
「分かったって!」
あいつが金持ちで、人を見下してる奴だったからって、俺は嫌うべき存在を間違えていた。
金持ちという事を気にしすぎて、勝手に金持ちに対する偏見を持っていた。
その事に乃々香は気付かせてくれたんだ。
そんな乃々香を、俺が嫌いな訳がない!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)