断固
一輝視点です。
乃々香を見ていると、段々と金持ちじゃないような気がしてきた。
そもそも料理長の料理を毎日食べているからって、金持ちとは限んないよな?
家で料理作ってくれる人のあだ名が料理長なのかもしんねぇし……
「な、なぁ……乃々香って、金持ちなのか?」
「え? あ、一輝お兄ちゃんはお金持ちが一番嫌いなんだったね」
「ま、まぁ……」
でも乃々香が金持ちじゃないなら……
金持ちだとしても乃々香みたいな奴なら……いや、でも金持ちだったらやっぱり俺は……
「ねぇ、一輝お兄ちゃんにとってのお金持ちって、なんなのかな?」
「なんなのか?」
「私は今、お財布にお金を持ってるよ? これはお金持ちかな?」
「いや、それは別にただ金を持ってるだけの奴だろ。金持ちっていうのは、豪華な家で、豪華な服を着て、毎日豪華な飯を食って、食のありがたみも知らないで捨てたり、金を持ってない奴を嘲笑って生きてるような奴だよ」
あいつみたいな……
そういう奴等が俺は本当に嫌いなんだ!
ってか、そんな事わざわざ聞かなくったって分かるだろうに、何で聞いてきたんだ?
「あのね、一輝お兄ちゃん。私の友達にね、凄く豪華なお家に住んでいる子がいるの」
「おう」
「私が言ってた料理長っていうのは、その友達の家の料理長なの」
「って事は、やっぱり乃々香自身が金持ちって訳じゃないんだな?」
「それはどうだろうね」
「は? どういう事だ?」
乃々香が何を言いたいのかが分からない。
自分は金持ちじゃないって言おうとしてるのかと思ったのに……
「私はその友達の家に住んでるよ。とても豪華なお家に、自分の部屋をもらってね」
「それは住んでるってか、借りてるだけだろ?」
「私の着てるこの服は、友達が私のためだけに考えて作ってくれた、特注品だよ」
「でもそれ、パーカーじゃん」
「家主でもないのに、世界の料理大会で何度も優勝してる料理長が作ってくれるご飯を毎日食べてるんだよ?」
「……でも、家主じゃないんだろ?」
「ねぇ? 私は一輝お兄ちゃんのいうお金持ちに、該当しているでしょう?」
豪華な家に豪華な服、豪華な食事を毎日しているという乃々香……
でも乃々香は、家の事をたくさん手伝ってくれたし、俺達の事を嘲笑ってなんていない。
あいつ等全員があれだけ懐いたのも、乃々香がいい奴だからこそだ。
だから乃々香が金持ちだろうと……いや、でも……
金持ちはやっぱり……許せないんだっ!
乃々香は金持ちなんかじゃない!
乃々香にもちゃんと、そう言わせないと!
「該当なんてしていないっ!」
「一輝お兄ちゃん?」
「家だって乃々香の家じゃないし、服だってただのパーカーだ! 食事にしたって全部、たまたま恵んでもらった物に過ぎないじゃないか!」
「私が家主でないだけで、私はあの家で好き勝手やってるし、パーカーだろうとこの服は凄く豪華なものだよ。食事に関していえば、食べたいものをリクエストをする時だってあるの。ね、私はお金持ちでしょ?」
何で乃々香は、そんなに自分の事を金持ちだなんていうんだ……
俺は、喧嘩をしたい訳じゃないのに……
「で、でもっ! 乃々香が自由に、バカみたいに金を使える訳じゃないだろ!」
そうだ、乃々香自身が好き勝手に金を使ってる訳じゃないはずだ!
だったらやっぱり、乃々香はただ恵んでもらってるだけで……
俺がそう、自分に言い聞かせていると、乃々香は"どうして分からないんだ"というような、呆れたため息をついて、
「……一輝お兄ちゃん。私、仕事をしているの」
と、静かに言った。
「……そ、それがなんだよ?」
「そのお給金は結構いい額をもらってる」
「……おう」
「趣味がないからね、お金を使う事がなくて、増える一方なんだよ」
「……で? だから?」
「別に欲しくないから買わないけど、宝石だろうと高級食材だろうと、買おうと思えば買えるんだよ」
「っ……な、なんでお前は、そんなに金持ちだって言いてぇんだよっ!」
「私は一輝お兄ちゃんが、間違ってると思うからだよ」
なんなんだ……
俺の、何が間違ってるっていうんだよ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)