謝罪
一輝視点です。
「一輝、お兄ちゃん……?」
そう言って出てきてくれた乃々香。
相変わらずペンギンみたいな格好をしているし、俺はこいつのお兄ちゃんではないのに……
昨日との違いは、重そうな大きいな鞄を背負っていることくらいか。
でも、そんな事は全部どうでもいい。
「乃々香……その、昨日は本当ごめんっ!」
「え?」
俺が勢いよく謝ると、乃々香はかなり動揺したみたいで、
「な、何で、一輝お兄ちゃんが謝ってるの? 悪かったのは私でしょう? その、本当にごめんなさい」
と、かなり困りながら謝罪してきた。
俺はあんなに理不尽に怒ったっていうのに……
「違う。乃々香は何も悪くないから……全部俺が悪いから、本当ごめん……怒鳴ったり、急に追い出したり、靴ぶつけたり……」
「そんな事、別に気にしてないよ。私が一輝お兄ちゃんが嫌な事を言ったんだもんね。一輝お兄ちゃんの価値観を壊してしまったんだもんね……怒って当然だよ」
乃々香は、何でこんなに自分の方が悪いと思ってるんだろうか?
明らかに悪かったのは俺だし、その俺が謝ってるんだから、乃々香が謝る必要なんて全くないのに……
むしろ、怒ってくれた方がいいのに……
本当に変な奴だ。
このまま謝罪の攻防を繰り広げていても埒が明かないし、どっちが悪いとかはもう一旦置いておこう。
それよりも、ちゃんと返してやらないと……
「あのさ、これ……返し忘れたペンダント」
「あぁー! ありがとうっ!」
俺がペンダントを乃々香に渡すと、子供のように喜んで受け取ってくれた。
さっきまでの困った様子も何もなくなり、とても嬉しそうにペンダントを着けて、外からは見えないように服の中にしまっている。
「本当にありがとうっ! このペンダントは私の宝物だから!」
宝物か……
それを俺は捨てろとか言って……最低だな。
だから陽日だってあんなに怒ったんだろうな。
「本当はあとでペンダントだけでも返してもらえないかって、お家の方へ寄ろうかとも思ってたんだけど……」
「何っ?」
「あ、ごめんねっ! 二度と来るなって言ってたもんね……やっぱり嫌だったよね……」
「あっ! いや、違う。来ていい、来ていいんだ。陽日も晃人も光も照も、皆乃々香に会いたがってるんだ」
「そうなの? やっぱりあの2人は凄いんだね!」
「あの2人?」
「うん、相談した友達」
友達に昨日の事を相談していたのか……
ってか、乃々香って友達いたんだな……
失礼なのは分かってるけど、こんな変な奴に友達がいることが驚きだ。
でも、本当にいい奴だもんな。
友達もいて当然か……
その友達は、どうしてこんな明らかに変な、ペンギンの格好で屋根の上を走りまわる事を止めないんだ?
その友達も、そういう奴等なんだろうか?
「乃々香はさ、普段何してるんだ? そんなペンギンの格好をして……まぁ、昨日と同じそれだったからこそ見つけられたんだけど」
俺が何気なくそう言うと、
「同じじゃない! 今日のはキングペンギンさんっ!」
と、乃々香は少し声を荒らげて怒ってきた。
さっきまでのは全く怒ってなかったのに、ここで怒るとか、本当によく分からない奴だ。
「違うのか?」
「ほら、ここがオレンジ色でしょ! それにここも黒だし、背中だってちょっとグレーっぽいし、それに……」
「昨日のは?」
「えっ、あ、昨日のはコウテイペンギンさんだよ。コウテイペンギンさんは、ここが黄色っぽくて、ここらへんも黒はなしで首のところと繋がっててね、背中は黒っぽいの。それにやっぱり一番大きいペンギンさんだからね。昨日パーカーもちょっと大きめで作ってもらってあったし、それになにより……」
「あー、うん。分かった。ペンギンって最高だよな」
「……うん」
長いペンギン語りが始まりそうだったので、一応申し訳ないとは思いつつも、話を打ち切ってみた。
でも、まだペンギンについて語りたそうな感じだな……
「乃々香はペンギンが好きなんだな」
「うん、大好きだよ!」
「それなら、この間出来たペンギンパークとか、最高なんじゃないか? 行ってきたのか?」
「ううん。行きたいんだけど、まだ行けてないんだ……」
そんなにペンギンが好きなら絶対に行ってると思ったのに、何でまだ行ってないんだろう?
金持ちなんだし、好きな時にいけばいいのに……
あれ、でも確かこいつ、家の掃除とかもしてくれたんだったよな?
金に物言わせてる金持ちが、そんな事をするか?
それに今だって、あんな大きな荷物を抱えているんだ。
金持ちなら、荷物くらい誰かに持たせればいいのに。
乃々香って、もしかして金持ちじゃないのか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)