蒔いた種
一輝視点です。
乃々香を探して街中を走り回り、気がついたら昼を過ぎていた。
なんで俺、あの金持ちをこんなに必死に探してるんだろう……?
金持ちなのにな……
でも確かに、いい奴ではあったんだ……
皆にあんなに優しくしてくれて……
昼には一度戻ってくるようにと、陽日も言っていたし、一度家に戻ろう……
「ただいま……」
「お兄ちゃん! 遅かったけど、大丈夫?」
「ちょっと、時間を見てなくてな。心配かけたか?」
「そんなに必死に探してくれてたんだね、ありがとう」
「もとはと言えば俺が悪かったんだから……」
「お兄ちゃん……」
玄関で陽日と話していると、
「ごちそうさまー! もう一回探してくるー!」
「いってくるー」
「ぼくもー」
と、晃人も光も照も出ていった。
「日が暮れたら帰ってきてよー! お兄ちゃん。私も行ってくるから、バイト行く前に皿洗いとお風呂掃除をしてから行ってね!」
陽日は、バタバタと忙しそうに俺の昼ご飯を用意して、出ていこうとしていた。
「待て、陽日!」
「え? 何?」
「俺が家事をやるより、慣れてるお前がやった方が早いだろ。効率を重視すれば、お前が家事で、俺がもう一回探しに行った方がいい」
「でも、お兄ちゃんはもうバイトに行くでしょ?」
「まだ時間も少しあるし、ギリギリまで探すよ」
「……そう。ありがとう」
陽日の作ってくれた昼ご飯をゆっくり味わえない事を残念に思うけど、全ては俺が蒔いた種だ。
やっぱり俺が解決しないといけない!
「あ、そうだ陽日」
「ん? どうかしたの?」
「あのペンダント、くれないか?」
「……なんで?」
「俺は日が暮れてからでも探せるし、一番探せる時間が長い。乃々香も見つかるかもしれないだろ?」
「それは、そうだけど……」
俺にペンダントを預けるのが嫌なんだな……
"捨てろ"とか言っちまったし……
でも、だからこそ、俺からちゃんと返すべきだと思う。
「もう捨てろとか言わないからさ、俺もちゃんと返したいんだ。あいつもすぐに返してほしいだろうし……」
「……ちゃんと、謝って、返すんだよね?」
「あぁ」
「分かった。はい」
陽日はペンダントを俺に託してくれた。
俺を信頼してくれている、いつも陽日に戻ってくれたんだ。
俺はこの期待に必ず応えないといけない。
「ごちそうさま。じゃあ、俺も行ってくるから!」
「うん! 行ってらっしゃい。気をつけてね」
乃々香のペンダントをしっかりと鞄にしまい、バイトの荷物も持って、もう一度家から出た。
さっきと反対側の方を探してみるか……
それからまた全力で走り回って探したけど、やっぱり乃々香は見つからなかった。
近くの公園の時計を見ると、あと30分程でバイトの時間だった……
もうひとっ走りしたら……
ズサッ! サッ!
え?
今、屋根の上に人影が……
一瞬だったけど、ペンギンみたいな格好をしていたような……って、考えてる場合じゃない!
「おいっ! 乃々香!? 乃々香なのかっ?」
変な人影が消えて行った方に向かい、走りながら声をかける。
視力は悪い方じゃないんだ!
絶対に見つけて……いたっ!
「乃々香っ! 乃々香なんだろっ!」
俺の必死の叫びは届いていないようで、屋根の上を駆けるペンギンは、どんどん走って行ってしまう。
それでもたまに立ち止まり、キョロキョロと辺りを見渡しているので、追いつけなくはない。
俺だって、脚力には自信があるんだ!
なんで屋根の上なんて走ってるんだとか、昨日の事をどう思ってるんだとか、聞きたい事はたくさんあるけど、会えなければ話にならない。
どうにかして、俺に気づいてもらわないと……
追いかけながら夢中で走っていると、△△丘公園の方まできていた。
ここは少し小高い丘になっていて、町が少し見渡せる場所だ。
この辺に来たと思ったんだけどな……
「はぁ……はぁ……の、乃々香ーっ! いるかーっ!」
丘から下に向かって全力で叫んでみた。
少しこだまして響いた自分の声……
凄い焦っているのが、自分でも分かる……
本当に、情けないな……
上から見渡した感じでは見当たらないけど、近くにはいるかもしれない。
もう一回探して……あ、バイトに行かなきゃいけないんだった、はぁ……
もうこれ以上はバイト先の人にも迷惑をかけてしまう。
諦めて帰るために、公園の出口の方へと向かおうとすると、
「一輝、お兄ちゃん……?」
と、後ろから声がした。
急いで振り替えると、重そうな大きい荷物を背負った、ペンギンの格好をした変な女が立っていた……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)