決定打
真視点です。
スノーフレーク本社内部にある、IDをもっている者しか入ることのできない休憩室。
仕事のない日、俺は大体この部屋にいる。
あまり誰も使わないこの部屋は、広いし、休むのにも丁度いいからな。
基本的に俺達主要メンバーは、このスノーフレーク本社にはあまりいない。
いつもいるのは副社長と、受付の紅葉、情報部の伊吹位だ。
でも副社長には副社長室、伊吹は情報部内に仮眠室を持っているから、この部屋に来ることはない。
だからこの部屋を使うのは俺だけのはずなんだが、今日は面倒な事に乃々香もいた。
「でさー、帰ったっていうのに奏海ちゃん帰ってこないしさー、結局1人だしー、スーパーボールも渡せないしー」
ずっと愚痴を聞かさせられてはいるが、脈絡なしに喋ってくるせいで、何が言いたいのかさっぱり分からん。
まぁ、いつもの事なんだが……
「ねぇー、まー君聞いてるー? 私の何が悪かったのかなー?」
「あぁ? 何が?」
「だから昨日のー」
昨日の何が何なんだよ。
まずそこから話せや。
本当にコイツはガキの頃から変わんねぇな……
ん? ってか……
「なぁ、乃々香。お前、ペンダントはどうしたんだ?」
「だからそれの話をしてたんじゃん!」
「いや、してなかっただろっ!」
いつペンダントの話なんてしたってんだ。
お前はスーパーボールの話しかしてねぇよ!
せめてペンダントの"ぺ"の字くらい言ってから言えよ!
とまぁ、色々と言いたい事はあったが、乃々香にペンダントがないとなると、それはかなりの重大事件でもある。
これは流石に無視できないな。
「とりあえず聞くから、落ち着いて話せ」
「うん……」
乃々香から聞いた話を整理して考えると、どうも乃々香は貧乏一家の反感を買い、その家にそのままペンダントを置いてきてしまったらしい。
しかもその家の者に二度と来るなと言われた手前、取りに行くわけにもいかず、困っていると……
「そもそも、私の何が悪かったの?」
「考え方や価値観が人それぞれ違うっていうのは、お前も分かってるだろ?」
「うん」
「だから、その一家とお前は価値観が合わなかっただけだ」
話を聞く限り、その怒った奴は相当短気だ。
これはちょっと、まずい状況かもな……
俺が早急に、ペンダントを取り返しに行った方がいいか……?
「ペンダント、捨てられちゃってるかな……」
「そんな事をするような奴等だったのか?」
「ううん。そんな事はしない人達だったよ……」
「ふっ、そうか。なら大丈夫だ」
「え?」
「大丈夫だから、安心して取りに行ってこいよ」
「でも、来るなって言われたのに、行っていいのかなぁ?」
「いいんじゃないか?」
「えー、でも……」
悩む乃々香にどう言えばいいかと考えていると、
「大丈夫だよ、乃々香」
と、紅葉が休憩室に入ってきた。
「紅葉ちゃん?」
「はい乃々香、次の仕事。この仕事ついでにその家に取りに行っておいでよ」
「仕事? これは……うん、分かった。でも、本当に行っても大丈夫なの? 捨てられちゃってない?」
「大丈夫、大丈夫。スノーフレークが誇る人間嘘発見器様と、人間観察のエキスパートたる受付主任が大丈夫って言ってるんだから。絶対に大丈夫だよ!」
「そっか、そうだね! うんっ! ありがとう、2人共! 行ってきまーす!」
「はーい、行ってらっしゃーい!」
紅葉の言葉に安心したようで、乃々香は元気よく休憩室から出ていった。
そして、すぐに帰ってきて、
「渡すの忘れてた! はい、お土産だよっ!」
と、俺と紅葉にスーパーボールを渡してきた。
縁日で取ってきた奴か……
「ありがとなー」
「ありがとねー」
「はーい!」
俺と紅葉の気の抜けた返事に満足し、乃々香はまた休憩室から出ていった。
ふぅ、やっと静かになったか……
「なぁ紅葉、お前なんで大丈夫だと思ったんだ? 乃々香の話、全部聞いてた訳じゃないだろ?」
紅葉が来たのは途中からだ。
こいつは正確な状況も分からないのに、無責任に大丈夫だなんて言う奴じゃない。
「んー? 確かに状況はよく知らないけど、大丈夫なのは確信できるよ。だって乃々香本人が言ってたじゃない? "そんな事はしない人達"だって」
「やっぱりな。俺もその発言が決定打だった」
「でしょ?」
結局は俺も紅葉も、その会った事もない人達じゃなくて、乃々香を信じたって事か。
乃々香がそう思ったのなら、間違いなく大丈夫だろう。
「疲れてるね。紅茶、淹れようか?」
「あぁ、頼む」
嵐も去った今、やっと落ち着いて休憩が出来そうだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)