無視
一輝視点です。
「お、おはよう……」
「……」
「陽日……」
「……」
「おはよう、晃人」
「……」
「光、照……」
「ふんっ! かずにいちゃんなんかとはなさない!」
「そーだ、そーだ!」
朝起きて、弟妹達に無視された……
こんな事は初めてだ。
皆俺の事を慕ってくれていて、俺もそれが誇りだったのに……
こうなってしまった原因は分かってる。
昨日、俺があの金持ち……"乃々香"を家から追い出したからだ。
金持ちなんて、俺達みたいなのをバカにしているだけだ。
それはいつも皆にも言ってたし、皆も分かってくれてると思ってたのに……
「なぁ、陽日……」
「……」
俺を睨んでくる陽日……
昨日の夜、
「お兄ちゃんがここまで最低だなんて思ってなかった!」
と言われてから、陽日は一切口を聞いてくれない。
確かにまぁ、ちょっとやり過ぎたとは思ってるけど……
「皆、朝ご飯だよー」
「はーい」
「わー、おいしそう!」
「晃人が手伝ってくれたんだよー」
「あきにいちゃん、すごいねー」
朝ご飯を陽日が用意してくれた。
もちろん俺の分もある。
怒ってて、無視をしてくるとはいえ、ご飯抜きとかにはしないんだな……陽日らしい。
「凄いな、晃人。陽日と一緒に作ってくれたのか」
「……」
「いただきます。……おっ! 凄く美味しいぞ!」
「……乃々香が、家の手伝いをしろって……」
「え?」
「乃々香いなかったら、作らなかったってだけ!」
「そ、そうか……」
晃人はそれだけ言って話してくれなくなった……
乃々香が言ったからか……
「ごちそうさまーっ!」
「はるねえちゃん! スーパーボールであそんでていい?」
「うん。でも、なくさないようにね」
「はーい」
「なんだ? そんなの家にあったか?」
「これは、きのうののかちゃんが……」
「てるっ! かずにいちゃんとは、しゃべらないのっ!」
「あ、そうだった!」
光と照が遊びだしたので話しかけてみたけど、やっぱりダメだった。
というか、これも乃々香か……
カチャ……カチャ……
陽日が食器を片付けてくれている。
手伝うか……
「ありがとな、陽日。ほら」
「……」
「いつも家事とかありがとな。1人で大変だろ?」
「……昨日は、乃々香ちゃんが手伝ってくれたからね。そんなに大変じゃなかったよ」
「うっ……あ、あのなぁ……乃々香、乃々香って、あいつは金持ちだったんだぞ?」
「……しつこい」
しつこいって……
陽日にそんな事を言われるなんて……
「陽日、金持ちっていうのは、俺達をバカにして生きてるんだ!」
「じゃあ乃々香ちゃんは、私達をバカにしてたの?」
「あぁ! そうだよ! そうに違いないんだ!」
「……昨日、お兄ちゃんお風呂に入ったよね?」
「え? あ、あぁ……」
「何も思わなかった?」
「何も……? うーん?」
「……最低」
また最低とか……
しっかりものの陽日に言われると、かなり傷つくんだけど……
風呂で何を思えっていうんだ……?
「あー、そうだな。いつもより綺麗だなって思ったよ。脱衣所とか、トイレとかも綺麗だったな」
「……」
「昨日は掃除も凄い頑張ってくれたんだよな! ありがとう、陽日」
「……違う。私じゃない」
「は?」
「私もあそこまで綺麗だとは思ってなかったから、かなりビックリした。乃々香ちゃん、あんなに綺麗にしてくれたんだって……」
乃々香……
そういえば昨日、乃々香が風呂掃除したとかなんとか言ってたな……
「ねぇ? あんなにしてくれる人が、本当に私達をバカにしてたと思う?」
「で、でも、祭り屋台のご飯とか、恵んだりとかしてきたんだろ? 明らかに俺達に情けをかけてやったって感じじゃないか」
「兄ちゃん! 乃々香はそんな感じじゃなかったよ! 俺達が恵んでもらうのはダメだって言ってるのも考慮して、それでもって買ってくれたんだ。バカになんてしてなかった!」
陽日と晃人が、2人して乃々香の肩を持ってくる……
「兄ちゃん、いい加減にしてくれ。俺は兄ちゃんの事が大好きだ。いつも俺達の事を気にしてくれてるし、頼りになるし……俺の目標だった」
「晃人……」
「でも、今の兄ちゃんは最低だ……」
「お兄ちゃん、ちゃんと乃々香ちゃんに謝って」
「うぅ……」
2人がまっすぐに俺を見て言ってくる……
俺が間違ってた……のか?
でも、あいつは金持ちで……
でも、俺の家族にこんなに優しくしてくれて……
でも、でも……
「とにかく、乃々香ちゃんを見つけないと話にならない」
「そうだ。はる姉ちゃんはまだ家事があるだろ? 俺、とりあえず探してくるよ」
「うん。私も家事が終わった行くね。見つけたら、とにかく家に呼んで。ちゃんと話し合おう。あ! 見つからなくても、お昼ご飯までには必ず家に戻って来てね」
「分かった。行ってきます」
晃人は乃々香を探しに出ていった。
陽日も行くつもりか……
「はるねえちゃん! わたしもいくー」
「光と照は遠くに行ったらダメだから、あの公園で遊んでいて。もしかしたら、乃々香ちゃんが来るかもしれないし」
「うん!」
「お昼には必ず帰ってくるんだよ?」
「はーい!」
光と照まで……
「お兄ちゃんは? どうするの?」
「……行ってくるよ」
「うん」
「乃々香を見つけて、謝って、家に連れて来ればいいんだろ?」
「うん」
「行ってきます……」
昨日は感情的になりすぎていた。
それは分かってる。
だからこそ、俺はもう一度ちゃんと話さないといけない……んだ……
あまり気乗りはしないけど、俺がまねいた事だし……
とりあえず、バイトのない午前は乃々香を探すとしよう……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)