兄弟喧嘩
陽日視点です。
「ただいまー」
お兄ちゃんが帰ってきてくれた声に、私と光と照が玄関まで出迎えにいった。
晃人も来たそうだったけど、今は火を使っているから仕方ない。
「お兄ちゃん、お帰り!」
「「おかえりー!」」
「おぉ、晃人。料理なんて珍しいな!」
「うん、お帰り、兄ちゃん」
お兄ちゃんは部屋に来るとすぐに、晃人が料理をしているのを見て、喜んでくれた。
晃人も少し照れているみたいだけど、嬉しそうだ。
「乃々香、携帯ありがとな」
「ん? うん!」
「本当によかったのか?」
「全然大丈夫!」
借りていた携帯を乃々香ちゃんに返している。
受けとった乃々香ちゃんは、携帯をみて少し嫌そうな顔をしたけど、大丈夫かな?
お兄ちゃんが傷をつけたとかじゃないよね?
「ご飯の都合とかもよかったのか?」
「うん。いつも適当に料理長に頼んでるし……」
お兄ちゃんの質問に、何気なく返事を返した乃々香ちゃん……
でも、え? 待って、今……"料理長"って言った?
「は? 料理長?」
「うん、料理長」
「お前はその、料理長の作った飯を毎日食べてんのか?」
「え? うん、そうだね。家にいるときは食べてるよ」
「お前……金持ちだったのか!?」
「ん? 金持ち?」
これはヤバいっ!
お兄ちゃんはお金持ちな人が目茶苦茶嫌いなんだ!
まぁ私もあんまり好きじゃないけど……
でも、乃々香ちゃんの事は好きだから!
急いで止めないと……
「俺は、金さえあれば何でも買えると思ってる金持ちが一番嫌いなんだ!」
お兄ちゃんの怒鳴り声に驚いて、体が固まってしまった。
晃人も光も照も、皆動揺している……
わ、私まで動揺してる場合じゃない!
私が止めないで、誰が止めるんだ!
自分を叱咤し、"お兄ちゃん"と、声をかけようとした時、
「お金持ちは、お金があれば何でも買えるなんて思ってないと思うけど?」
と、乃々香ちゃんは言った。
それも、お兄ちゃんの言っている事が分からないというかのような、きょとんとした顔で……
「は?」
「金持ちは、お金を持っているからこそ、お金では買えないものがあることを知ってるよ。"お金があれば何でも買える"なんて思ってるのは、お金を持っていない人達の方なんじゃないかな?」
「何っ!?」
「少なくとも私の知ってるお金持ちは、お金で何でも出来るとは思ってないよ。でもお金がないと何もできないことも知ってるけどね」
お兄ちゃんが怒ってるって、分かってるはずだよね?
それなのに乃々香ちゃんは、平気そうにお兄ちゃんと話してる……
こんなに怖い顔のお兄ちゃん、妹の私でも怖いのに、乃々香ちゃんは怖くないの……?
「出ていけっ!」
「え?」
「この家は、お前みたいな俺達をバカにして生きてる金持ちがいていい場所じゃない!」
ついにお兄ちゃんは出ていけと言い出した。
って、見てる場合じゃない!
止めないと!
「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん?」
「早く出ていけっ! 二度と家に来るなっ!」
お兄ちゃんを制止しようとしたけど、簡単振り払われて、お兄ちゃんは無理矢理に乃々香ちゃんを追い出した。
家の玄関前に倒れた乃々香ちゃんに、乃々香ちゃんの履いていた靴を投げ捨てるようにぶつけ、
「二度とこの家に近づくなっ!」
バンッ!
と、お兄ちゃんは玄関の扉を閉めてしまった。
「お、お兄ちゃん!」
「に、兄ちゃん……流石に、やり過ぎ……」
「陽日、お前達も! 二度とあんなのに関わるな!」
「な、何言ってるの! 乃々香ちゃんに失礼だよっ!」
「うあぁぁぁああっ!」
「の、ののがぢゃんっ! ののかぢゃんがぁぁああ!」
光と照は声をあげて泣き出してしまった。
「ん? 光、それは何を持ってる?」
「え……こ、これは……ののかちゃんのペンダント……」
「そんなもんは捨てろっ!」
……捨てる? 乃々香ちゃんのペンダントを?
これは、とても大切なものなのに、光達に貸してくれた、乃々香ちゃんの宝物なのに……っ!
「お兄ちゃんっ! いい加減にしてっ!」
「は、陽日……?」
「本当っ! 最低だよ!」
「そうだ! 兄ちゃん最低!」
「さいてー」
「お、おい……」
「光、ペンダント頂戴」
「うんっ!」
「お兄ちゃん! もうっ! そこ退いてよ!」
玄関の前に立つお兄ちゃんを、晃人と光と照が力強く引っ張って退けてくれて、私はペンダントを持って急いで外に出た。
辺りを見渡してみたけど、乃々香ちゃんは見当たらない……
「はる姉ちゃんっ! 乃々香は?」
「いない……でも、まだ時間も経ってないし、近くにいるはずだよ! 探してくるっ!」
私が走り出そうとすると、
「待って!」
と、晃人が大きな声で止めた。
「晃人?」
「多分、もう近くにはいない……」
「え?」
「あいつ、木とか一瞬で上れる変な奴だから、きっともう遠くに行っちゃってるよ……」
「それは、確かに……」
「今日はもう遅いし、明日、皆で探した方がいい」
「……そうだね」
乃々香ちゃんはきっと、もうこの家には来てくれない。
お兄ちゃんが二度と来るななんて言ったから……
でもこのペンダントは返して欲しいはずだ。
明日、皆で乃々香ちゃんを探そう!
そしてちゃんと謝るんだ!
許してもらえるかは分からないけど……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)