いい加減
晃人視点です。
「そろそろ花火が始まるね!」
「みえるかなぁ?」
「見える所に行こっか!」
乃々香はそう言って、お店の並んでいない裏の方へと入っていった。
俺達も続いて入る。
「乃々香? こんな裏から見えるのか?」
「ちょっと待っててね……」
何をするのかと思って見ていると、乃々香はぴょんと跳ねて木の上に上った。
本当に一瞬で、どう上ったのかもよく分からなかった。
「すごーい!」
「ののかちゃんは、やっぱりとべるペンギンさんなんだね!」
光と照は、あまり驚いていない。
きっと一緒に遊んでいた時にでも、今のジャンプを見たんだろう。
「よっと、あっちに行こっか。花火の上がる位置と角度から計算しても、あそこからなら見えると思うよ!」
木から簡単に降りてきた乃々香は、花火が見える位置を見つけたみたいだ。
なんか、ちょっと難しい事を計算したらしい……
「もしかして乃々香って、意外と頭いいの?」
「意外とは失礼な。私は目茶苦茶頭いいんだよっ!」
「◎◎大学とか、卒業してるの?」
「私、まだ16歳だから、大学生じゃないよ」
「え? 16歳?」
だったら兄ちゃんより年下じゃん。
兄ちゃんは誕生日のきてる18歳だから、高校3年生だ。
乃々香は兄ちゃんの1個下か、2個下か、どっちだろう?
「乃々香って、高校2年生? どこ高校なの? 兄ちゃんの後輩?」
「年的には高校2年生だけど、高校は行ってないからね」
「え? 中卒?」
「うん!」
そんな自信満々に言われても……
「何で高校行かなかったんだ? 頭いいんだろ?」
「高校に行って勉強するよりも、やりたいことがあったからね」
「何それ?」
「……ほらっ! 晃人君! 急がないと花火が始まっちゃうよ! 花火、花火っ!」
思いっきり話を反らされた。
ってことは、教えてくれる気はなんだろう。
それなら深く聞くのはやめておこう。
バーン! ババーン!
「あー、みえないぃ……」
「もうちょっとだからね。頑張って歩こうね!」
「うん!」
乃々香が見つけたという、花火の見える場所に向かって歩いていく。
途中で花火ははじまってしまったみたいだ。
「ほら、もうすぐだよ!」
「わぁ!」
バーン! バンバーン! ババーン!
「すごいっ! きれーだね!」
「こんなにきれいにみれたの、はじめてだよ! ありがとう、ののかちゃん!」
「いえいえ、どういたしまして」
少し高い丘の上。
本当に穴場のようで、他にお客さんはいなかった。
俺達の貸しきりだ。
「元々この場所を知ってた訳じゃないんだろ?」
「うん。さっき上から見つけたんだよ!」
上からなら見つけやすいか……いや、そんな訳がない。
もう辺りも暗くて、上からみたって灯りのないところはみえないはずだ。
余程目がよくないと、こんな穴場を上から見つけるのは無理だ。
「乃々香って、目がいいんだな……」
「まぁねー」
いい加減な返事……
これも真面に答える気はないのか……
「晃人君! 考え事なんてしてると、花火終わっちゃうよ!」
「そんなに早くは終わんないよ! 始まったばかりなんだから」
「そうなんだ」
「乃々香は、今まで花火を見た事ないのか?」
「こんなに盛大なのは初めてだね! 地元の可愛い感じのなら、皆でよく見てたよ!」
「へぇー。地元ってどこ?」
「どこだろうねぇ?」
「まぁ、何処でもいいけど」
もう乃々香の事を気にするのはやめよう。
気にしたってしょうがないんだ。
悪い奴じゃないんだし、"変な奴"って事で納得してしまおう。
「またいっしょにみよーね、ののかちゃん!」
「おっ! 誘ってくれるの? 嬉しいな! でもごめんね、来年は一緒に見られるか、分からないよ」
「えー」
「一緒に見られるといいね!」
「う、うん……」
「乃々香、そこは嘘でも、一緒に見ようって言えばいいだろ?」
「出来ない事を約束する訳にはいかないよ。でも、一緒に見られるように努力はするから!」
「うん! あきにいちゃん、わたしもののかちゃんにもつごうがあるってわかってるから!」
「そうか……」
光……なんというか、大人になったな……
「あきにいちゃん。はなび、きれいだね!」
「そうだな」
はる姉ちゃん達も、楽しく花火を見てるかな?
兄ちゃんも一緒に見られてたら、もっととよかったのにな……
「来年はきっと、お兄ちゃんとも見られるよ!」
「……別に、俺は」
「素直じゃないな、晃人君は」
「お前が素直過ぎるんじゃないか?」
「わーい、ほめてもらったー!」
「ほめてない!」
本当に、来年こそは兄ちゃんと一緒にみたいな。
出来れば母さんと、の……乃々香も一緒に……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)