欲求
晃人視点です。
乃々香は、射的で増やしたお金を使って、屋台の食べ物を買ってくれている。
たこ焼き、焼きそば、お好み焼き……皆で分けて食べれるものを選んでくれているみたいだ。
「わぁーきれい!」
「じゃあ買おっか!」
「いいの?」
「今日はお祭りだからね! たまには我慢しなくてもいいんだよ!」
「ありがとー」
今度は、光が見ていたりんご飴を買ってくれた。
「乃々香、もういいよ」
「皆は本当に何も欲しがらないねー。もっと欲しいっていってくれていいのに」
「……うちは貧乏だもん。欲しいと思ったからって、手に入らないものの方が多い事を知ってるんだよ」
「そんな難しい事言っちゃって……晃人君はまだ小学生なんだよ? もっと甘えればいいのにー」
乃々香はこう言ってくれるけど、
"あまりにも恵んでもらう事に慣れてしまうのは、自分をダメにしてしまう"
って、母さんもよく言ってるし、
"何でも金で解決出来るっていう考え方になったら終わりだ"
って、兄ちゃんも言っていた。
だから、お金があるよ、選んでいいよって言われたからって、好きなものを好きなだけ買ってもらうっていうのは間違ってると思うんだ。
「あんまり子供のうちから、変な悟りは開かない方がいいと思うけどなー」
「別に変な悟りは開いてない」
「将来、変な大人になっちゃうよ」
「乃々香みたいな?」
「あはははー」
少し冗談のように言ってみたけど、乃々香は特に否定をしなかった。
さっきの射的もそうだけど、あんな異常な事が普通に出来る奴はそうはいないはずだ。
自分が変な奴だという自覚はあるんだろう。
「よし! チョコバナナを買おー!」
「「おー!」」
乃々香は話を誤魔化すように、今度はチョコバナナを買いに行ってしまった。
しかも、光と照を味方につけて……
ああしてるのをみると、精神年齢が一緒にしか見えないな……
「おっ! 照君! スーパーボールすくいがあるよ! 一緒にやろっか!」
「え、でも……」
「これは、私が照君とどっちが多くすくえるか勝負をしたいだけだから、照君が欲しがってるわけじゃないよ」
「うん」
「だから、大丈夫! ね、晃人君!」
今度はスーパーボールすくいか……
こういう屋台の遊びみたいなのは、今まで一度もした事がない。
乃々香も物欲の少ない俺達に気を使いながら誘ってくれてるし、折角だから照には挑戦させてやった方がいいと思う。
「そうだな。照、頑張れ!」
「がんばるっ!」
照は初挑戦のスーパーボールすくいだったのに、10個のスーパーボールをすくう事ができた。
対して乃々香は2個……
射的は上手いのに、これは下手なんだな……
「次、光ちゃんも勝負しよ!」
「うんっ!」
光も挑戦して、7個をすくった。
二度目の乃々香は5個だ……
条件は一緒だし、わざと負けてくれている訳じゃなさそうなので、本当に下手なんだろう。
「晃人君は?」
「いや、そんなにスーパーボールたくさんは要らないし」
「それもそうだね」
俺もやるように誘われたけど、流石に断った。
そんなにスーパーボールで遊ぶこともないだろうし、必要ないものはいらないから……
というか、乃々香はこのスーパーボールをどうするつもりなんだろう?
いい歳して、流石にスーパーボールで遊ぶなんて事はないだろうし……
「そのスーパーボール、どうするんだ?」
「ん? お土産にするよ」
「家族へのか?」
「家族みたいな人達だねー」
「スーパーボールで喜ぶか?」
「喜ぶよー! 私が渡すんだもん!」
なんだ? その自信はどっからくるんだ?
「大切な人が、大切な人にプレゼントをするんだから、どんな物でも嬉しいはずだよ!」
「どんな物でも? ならゴミでも嬉しいのか?」
「晃人君は、大切な人にゴミを渡すの?」
「いや、渡さないけど……」
「ね、そういう事だよ」
「ふーん……」
ちょっとからかってやろうとしたけど、上手くかわされてしまった感じだ。
本当に凄く変な奴だけど、やっぱりしっかりしてるんだな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)